とても良い小説。

今回は、夏目漱石の幻想的な短編集「夢十夜」、その中でも特に私の心に沁み込んだ「第七夜」について語っていく。

 

第七夜には、どこへ行くのかもわからない大きな船に乗った主人公が登場する。

 

自分はどこにいくのかわからない船でもやっぱり乗っている方が良かった、と初めて悟りながら……(第七夜より)

 

この船は、おそらく「人類」や「社会」そのものの比喩であろう。周囲の人々は、天文学に熱中したり、ピアノを弾いたりして、船の上で自由に過ごす。

私は自分自身の生きている感覚を、この主人公に重ねていた。「ただ働いて死ぬ、それだけでいいのか?」という、盲目的に生きることへの強い違和感。「社会」ましては「人類」の行先、「ゴール」が分からないのだ。私も人類の行先が気になって仕方がない。生きることに何の意味があるのか。

 

主人公は耐えきれず海へ飛び込むが、黒い波に落ちる瞬間に「無限の後悔」に襲われる。行き先がわからなくても、船に乗っていたほうが良かったと。

 

漱石はここで、「死より、不安を抱えた生の方がマシだ」という確かな結論を提示している。

生きる意味などないかもしれない。盲目的に生きることが一つの正解なのかもしれない。そう考えさせられた。

しかし、私は盲目になればいいと誰かに言われたいわけではないのだ。たとえ幻想であっても、その行先を知りたい。

 

主人公は本当に後悔したのだろうか。船という決められた場所から飛び出したその一瞬にこそ、自分の意志で選んだ道を歩み、真の意味で生を感じられたのではないか。

そんな風に考えてしまう。

 

総評 91/100点

正直、理解できない部分が多くあった。しかし、現代を生きる私たちが抱えて生きることへの不安に対し、漱石なりの答えが示されている点に文学の凄みを感じた。

人生経験を積むごとに、また別の夜の正体が見えてくる、そんな気がする。