モウスが異界の口から人間界へ来るときに、
ひびの入った〝さえの神〟で
背中を傷付けたこと。
その傷からモウスは突然変異をして
件の能力と〝さえの神〟の能力を持ったこと。
赤ん坊のキヨコに出会ってからずっと
キヨコを守り続けた心優しい妖怪だったこと。
図体はデカかったけど、
緑色のモフモフの毛は柔らかくてあたたかで
何度もモウスに癒されたことなどを
〝さえの神〟に話して聞かせた。
石に向かって話すなんて
側(はた)から見たら変な光景だが、
タマモは一方的に語りかける。
「そうそう、モウスって名前はね、キヨコが付けたんだよ。アンタは何か喋るたんびにモウス、モウスって語尾に付けていたからね」
モウスモウスと言うモウスを思い出し
タマモとオミくんがクスッと笑った。
「モウスはずっとキヨコを大切に思っていた。キヨコのことを案じて、幸せになって欲しいと強く願っていた」
タマモは手に力を込めた。
「モウス、アンタは死んでもなお…そう、さえの神になっても…いや、たとえ全てを忘れてしまっていても、キヨコのことを思っているんだろう?」
〝さえの神〟は石なのに、
なぜか柔らかく感じる。
「ああ、キヨコのことを思っているのは…ひのえさんもだね。キヨコって名前に親の願いが込められている。アンタが名付けたんだろ?アンタが産み落としたキヨコは有未と達郎が愛情たっぷりに育てているよ。アンタの望み通り、清らかな子に成長している。それに…」
タマモが話している途中で
「あっ!」
オミくんが大きな声を上げた。
「タマモ!さえの神をよく見て!なんか前と違う。ちょっと緑色になっているよ」
タマモとブンジュが目を凝らす。
確かに〝さえの神〟は緑色っぽい。
苔むしたのだろうか?
いや、違う。
緑色がどんどん濃くなっている。
ブンジュが体を左右に動かし、
〝さえの神〟をあらゆる角度から見た。
「さっきまであったヒビが見えないぞ」
ブンジュが不思議そうに言った。
〝さえの神〟のヒビが
緑色で覆われているのだ。
「おお〜!こりゃ驚いた。まさかモウスにこんな力があったとは…」
タマモが感嘆の声を上げた。
「この緑色はモウスの毛だよ。モウスの体毛が石のヒビを覆っている!モウスは〝さえの神〟のヒビを修繕したんだ。凄い!凄いよモウス!もうこれで大丈夫。ここから邪悪なものが出てくることはない。キヨコも安心だよ。ありがとう、モウス」
タマモは踊り出さんばかりに喜んで
〝さえの神〟に手を合わせた。
「これで、この土地は安泰だ。邪悪な奴らは出てこられまい。もう大丈夫だ」
〈続く〉