「へぇ、ここがキヨコの家か」

ブンジュがキョロキョロと辺りを見回す。

「こっちに来たのは初めてかい?」

オミくんが聞く。

「日本は初めてだ。母親がアメリカ人で…」


タマモが口を挟んだ。

「悪いが、ゆっくり日本見物している暇はないんだ。モウス…いや〝さえの神〟のところに行くよ。さぁ、早くアタシに、しがみつきな!」

急に「しがみつけ」と言われて

ブンジュは目が点になった。


これからタマモは豆粒くらいに小さくなって

空気孔から床下に潜り込むが、

オミくんとブンジュは小さくなれない。

キヨコの母親はもう事情を知っているから

床下に入れてくれと頼めば

家の中から潜らせてくれると思う。

しかし、ここにキヨコが居ないことで

余計な心配をかけてしまうだろう。

説明するのも面倒だ。

だから2人に小さくなってもらうしかない。

タマモが小さくなる時に

タマモの衣服も小さくなる。

その効果を利用して

タマモの一部になるように

ギュッとくっついていれば

一緒に小さくなって床下に潜り込める。

オミくんとキヨコは経験済みだ。

…と、タマモとオミくんは心で伝えた。

サトリであるブンジュは当然

心を読んで理解したはずだ。


「さぁ、アタシの身体の一部になるくらい、しっかりしがみつきな!」

タマモが再度言うが、

ブンジュは尻込みをした。

「いや…それは」


オミくんが手本を示す。

「さぁ、ブンジュ、こんな風に、しっかりつかまるんだ」

タマモに抱きついたオミくんが目配せをする。

「でも…そんな…僕は」

ブンジュの顔が赤くなった。

恥ずかしがっているのか?


「おい、何を意識しているんだ?タマモだぞ?女だけど、婆さんだぞ」

オミくんが笑いながら言う。

それを聞いたタマモの眉がヒクッと動いたが、

ブンジュはオミくんに言い返す。


「違うよ!タマモさんが、お婆さんになったから…」

サトリの里では本来の姿になる。

だからタマモは九尾の狐だった。

でも、人間界に戻って来たタマモは

お婆さんの姿になっていた。

ブンジュは

高齢なお婆さんに2人も抱きついたら

重くて大変だと気遣って

抱きつくのを躊躇ったのだが、

タマモは眉をひくつかせている。

婆さんだから嫌なのだと勘違いしたのだ。


「は?お婆さんだからだと?生意気なガキだ!」

タマモは不愉快そうに

顔をしかめながら笑った。

「若い女なら抱きつくのかい?子どものくせに、やっぱり男なんだねぇ。だったら大サービスしてやる。これでどうだ?」

タマモは妖力を放ち

絶世の美女「玉藻前」の姿になった。

光り輝く美女を前にして

ブンジュは口をあんぐりと開けている。


玉藻前が艶やかな唇を開く。

「さぁ、ブンジュ、おいで」

白い指がしなやかに動き、

手招きをしている。

ブンジュは吸い寄せられるように

ふらふらとタマモに近づいた。


「さぁ、早く。抱いておくれ」

ブンジュは恐る恐る玉藻前に触れた。

そして勢いよく抱きついた。

すかさずオミくんも抱きついて、

ブンジュごと抱えてしがみついた。

オミくんがクスッと笑う。

「女のバーチャルシミュレーションはしなかったの?男なら1番興味のあるところだと思うけどねぇ。でも、夢心地はここまでだ。もう、タマモはお婆さんに戻ったよ」


うっとりしていたブンジュが顔を上げると

玉藻前はお婆さん姿のタマモに戻り、

「ケケケっ」と笑って

豆粒のように小さくなった。


「足も絡めるんだ。しっかり掴まらないと振り落とされるよ」

オミくんに言われて

ブンジュは慌てて足と腕に力を入れた。


      〈続く〉