授業中のようだが、
ひのえの机にある教科書は
真っ黒に塗られていて読めるものではない。
しかも所々カッターで切り刻まれていた。
ひのえはイジメを受けているのだ。
サトリの血を引く娘は
驚異的な記憶力の持ち主だから
教科書がなくても構わないだろうが、
こんな状態の教科書なのに
先生が何も言わないのはどういうことか?
先生も含めてクラス全員が
イジメに加担しているということなのだろうか?
しかし、
ひのえは何事もないように
平然と授業を受けている。
肝っ玉が据わっているというか、
冷めているというか、
落ち着きすぎていて不気味だ。
体育の授業になると
マジックで大きく
「ブス」とか
「ビンボー」とか
数々の悪口が書かれた体操服を着て
ひのえは並んでいた。
その姿を見ても先生は何も言わない。
見て見ぬふりだ。
ひのえは恥ずかしがる様子もなく
堂々と跳び箱を跳んでいる。
給食の時間になると
ひのえの皿には虫が入れられた。
クラスメイトがクスクスと笑っている。
カブトムシの幼虫のような白い虫が
酢豚の中で蠢いているのが見えた。
悲鳴を上げて当然な場面だが、
ひのえは顔色ひとつ変えず
虫入り給食を口にする。
「ひゃっ!」
仕掛けたクラスメイトの方が
逆に声を上げて顔をひきつらせた。
ひのえは構わず食べ続けているが、
さすがに虫は食べちゃダメだろう。
キヨコはブルッと震えた。
『そう?虫は栄養価が高いし、食べたって問題ないわ。体操服の落書きだって模様だと思えば平気。イジメ?どうでもいいよ。先生も友だちもいらないもの」
ひのえの声が耳からではなく
頭の中にダイレクトに入ってきた。
クラス全員からいじめられて
先生にも無視されて
助けてくれる人も
庇ってくれる人もいないのに
ひのえは平気だと言う。
どんなにいじめられても
抵抗せずに受け入れ、
その上をいく精神力は恐ろしい。
すぐに
ひのえはいじめられなくなった。
何をしても動じないひのえを気味悪がって
誰もが距離をおき、
ひのえに関わらなくなったのだ。
キヨコの実の母親であるひのえの少女時代は
家庭でも学校でも
過酷で悲惨で寂しいものであった。
それにしても
ひのえは強い。
プツン…。
また電源の落ちる音がして暗闇になった。
何も見えないが、
今度はさっきと様子が違う。
「ウィーン」と小さな機械音がして
床がランニングマシンのように動き出したのだ。
「え?なにこれ⁉︎」
暗闇の中を強制的に走らされたキヨコは
ひのえの心情を押しはかる余裕もなくなった。
〈続く〉