見ると

丘の東屋に腰掛けている男性が見えた。

「え?あの人が長老?」

キヨコは怪訝な顔で首を捻った。


キヨコが想像していた長老は

白髪の毛むくじゃらで、

杖を持つ腰の曲がったお年寄りで、

100歳は優に超えているのに

眼光だけは鋭い…というイメージだった。


「ぷぶっ!」

キヨコのイメージが見えたのだろう。

ブンジュが声を殺して笑っている。


くーっ!恥ずっ!

やっぱムカつく!


しかし、

笑われても仕方ないと思えるほど

現実の長老は全く違っていた。


パリッとしたスーツを着ていて、

30代後半から40歳くらいの

キヨコの父親と変わらない年格好で、

長老と言うには若すぎる見た目だ。


しかも

毛むくじゃらではない。

髪はきちんと整えられ

髭の剃り残しもない。

清潔感のあるダンディなオジサンだ。

サトリ=毛むくじゃらという方程式は

成り立たないのか?


さらに言えば、

長老は妖怪らしくない。

見た目もそうだが、

行動もそうだ。

ブラインドタッチで

モバイルPCに打ち込んでいる。

まるで有能なビジネスマンのような

華麗な指さばきだ。

これがサトリの長老⁉︎


キヨコたちが近づくと

長老は手を止め

満面の笑みでこちらを見た。

さっきまでキヨコを笑っていたブンジュが、

キリッとして長老に話しかける。


「長老、客人です。人間界から来ているので、声でお願いします」

ブンジュが断りを入れると

ダンディな長老は頷き、

ブンジュとキヨコに目を配り、

穏やかに話し出した。


「サトリの里へようこそ。私はマスラットン、サトリの里の長です。君はキヨコさん、ひのえさんの娘さんですか。ひのえさんのことを調べにきたようで…ええ、それなら、ひのえさんの父親であり、キヨコさんの祖父であるエジャジに聞くといいですよ。でも、その前にキヨコさんのルーツであるサトリについてお教えしましょう」


マスラットンが手招きをして

パソコンをキヨコの方に向ける。

マスラットンのそばに行くと

花の香りがした。

香水をつけているようだ。


「これをご覧ください」

キヨコがパソコンを覗き込むと

『サトリの歴史』というファイルがあった。

「えーっと…日本語訳のものは…」

マスラットンが文書を探している。

何カ国にも翻訳されているようだ。


「あっ、ありました。キヨコさんなら一気に読めますね」

そう言うとマスラットンは

さっと画面をスクロールした。

30ページはあったが、

閲覧タイムは3秒ほどだ。

一般人には読み取り不可能だが、

完璧な映像記憶ができるキヨコには

何の問題もない。


「え?サトリも人間も元は同じ人間ですって⁉︎」

全てを読んだキヨコは驚きの声を上げた。

「ええ、その通りです」

マスラットンが

愛おしそうにキヨコの頭を撫でた。


〈続く〉