ビュン飛び急降下中、
「ん?」
いつもと様子が違う。
着地点であるビュンチが見えない。
あの魔法陣のような幾何学模様が
どこにも無い。
向かっている方向は
緑が黒く見えるほど深く大きな森。
そこへ一直線に落ちて行く。
「えっ!ヤバイよ!ヤバイ!」
オミくんが珍しく慌てている。
「オイ!トキヤ!どうした?」
タマモが聞いているが
急降下の凄まじい轟音で
よく聞こえない。
もう森の木がはっきり見える。
ダメだ。
このまま森に突っ込んでしまう。
キヨコは目を閉じた。
ザザザッ!バキバキッ!
ドザドサドサ!
ガサガサガサッ!
ザザッ!バキバキッ!ボキッ!
ドザドサッ!
ザザザザザーーー!
ジャングルのように
鬱蒼と生い茂った森の木の枝を
バキボキと折りながら
キヨコはドスンと地面に落ちた。
「イタタタ…」
尻もちをついたが無事のようだ。
キヨコは立ち上がるより先に
両手で頭を触り、
母親が編み込んでくれた髪型が崩れていないか
念入りに確かめた。
大した乱れはないようだ。
緑のポンポンもちゃんとある。
ホッとしたキヨコは立ち上がって
身体中についた木の葉や木屑を払った。
「トキヤ!どうなっているんだい?」
タマモの声が上空から聞こえる。
見上げると
大きな木々で出来た緑の天井に
ぽっかりと穴が空いていた。
キヨコの落下により出来た穴だろう。
その穴の空間にタマモが浮かんでいる。
随分と高い位置、
20m以上の高さだろうか。
「オイ!ここがサトリの里の入り口かい?以前来たときと全く様子が違うぞ」
大きな木に向かって喋っていると思ったら
枝の先にオミくんがぶら下がっていた。
背負っていたランドセルが枝に引っかかって
身動きがとれないようだ。
「うーん、間違いなく、ここがサトリの里なんだけど…変だなぁ」
「何が『変だなぁ』だ!こんなところで迷っている暇は無いんだよ!」
イラついているタマモが声を荒らげたが、
オミくんの受け応えはのんびりしている。
「まぁ、まぁ、とにかくさ、このままじゃなんだから、先ずは僕を降ろしてよ」
タマモはチッと舌打ちをして
オミくんが引っかかっている枝に飛び乗ると
「ふん!」と体重をかける。
「じゃあ、さっさと落ちな!」
「あ!バカ!そういうことじゃ…」
バキッ!
大きな音をたてて枝が折れた。
オミくんが真っ逆さまに落ちていく。
「ピィーーィ」
落ちながらオミくんが口笛を吹いた。
すると
ものすごい勢いで大きな鳥が飛んで来て、
激突寸前、地面スレスレのところで
オミくんをつまみ上げ
キヨコの前を横切って行く。
大きな鳥はオミくんを下ろすと
ふっと消えた。
「も〜、勘弁してよ〜。危ないなぁ。落としてじゃなくて、降ろしてって言ったんだよ。歳をとると耳が悪くなるのか、根性が悪くなるのか…」
無事に着地したオミくんが
ブツブツとぼやいている。
タマモがゆっくり降りて来た。
「危ないから勘弁してほしいだと?それはこっちの台詞だよ。もっと早くにあの鳥を出せばアタシたちは安全に着地できたんじゃないか?」
本当にタマモの言う通りだ。
「あ!そうだったね」
オミくんが天然ぶりを発揮して
キラッキラの笑顔を見せた。
「まったく!何度生まれ変わっても鈍臭いねぇ」
そう言ってタマモがため息をついたとき、
大きな木の後ろからサッと何かが動いた。
「痛っ!」
タマモとオミくんが同時に声を上げる。
見ると、すぐ側で何かが蠢いている。
それが急に伸びてきて2人を刺したようだ。
トゲのある蔦のような植物だ。
いつの間にか3人は
トゲトゲの蔦に囲まれていた。
「何だ、こいつら!」
タマモが妖気を放ち
九尾の狐の姿に変化する。
オミくんも
血の滲んだ右腕をペロリと舐めると
臨戦態勢で身構えた。
「変だね。こいつらには妖気が無い。殺気も感じない。だから近づいてきても気づかなかったんだ。不意をつかれたな」
敵意がないのに
なぜ傷つけるのだろう。
「痛っ!」
キヨコの足にもトゲの蔦が伸びていた。
キヨコの血がついたトゲは
プルプルと震え出す。
そしてトゲの先にポンと赤い花を咲かせた。
蠢いていた蔦たちの動きがピタリと止まった。
〈続く〉