モウスは満面の笑みで答えた。
「もうすぐモウスの命は終わるモウス。そして正真正銘の〝さえの神〟になるモウス」

「なんだって?」
タマモが驚いて目を見張った。
「寿命モウス。モウスは間もなく死ぬモウス。モウスは魂になって〝さえの神〟の中に入るモウス」
「何と!モウスは死期が近いのか?…モウスがアタシを呼び出すなんて只事ではないとは思ったが…そう言うことか…」

タマモは頭をカリカリと掻きむしった。
「そうなると…どうなる?…そんで…どうする?いや、それで…」
暫くぐるぐると歩き回って
何やら呟いていたが、
急に動きがピタッと止まった。
そして
ゆっくり〝さえの神〟に手を乗せた。

この石からは様々な人の霊力を感じる。
名も知らぬ尊き人々が命を吹き込んでいる。
その中には、ひのえもいた。
ひのえも自らの命を分け与え
この石の力を強力にしている。
ひび割れてさえいなければ
恐ろしい魔物を封じ込める力が
充分にある。

タマモは
〝さえの神〟に手を置いたまま
モウスに語りかける。
「あのさ、モウスが死んだからって、この〝さえの神〟に必ず入れるとは限らないよ。妖怪は三途の川を渡らないんだ。いきなり何処かに転送される。それに…」
「心配ないモウス」
モウスはタマモの言葉を遮り
ポンと胸を叩いた。

「モウスは未来が見える件(くだん)モウス。そこはちゃんと見えているモウス。間違いなく〝さえの神〟に宿るモウス。大丈夫モウス」
「間違いなく?」
タマモが繰り返すと
モウスは自信たっぷりに頷いた。

「死ぬのは怖くないモウス。生きていれば必ず死ぬモウス。当たり前モウス。件の命は短いモウス。それが10年も生きたモウス。キヨコと一緒で楽しかったモウス。死んでも〝さえの神〟となってキヨコのそばにいられるモウス。キヨコを守れるモウス。幸せモウス」
モウスは思いの丈を一気に吐き出すと
一筋の涙を流した。

「そうかい。幸せかい。うん、そうかもしれないね。死んでも好きな人の役に立てたら幸せだ。羨ましいよ。でも…」
タマモが言い淀む。
「玉ちゃん、ダメモウス。でもはダメモウス。心が揺れるモウス」
モウスは手で顔を覆うと
グイッと涙を拭い取った。

「そうだね。悪かった」
タマモが身を正し、
畏まって頭を下げた。
「肉体はただの器だ。死は器の消滅でしかない。そう、分かってはいるのだが、モウスの器は柔らかくってモフモフで…魅力的過ぎてさ。未練がましく執着してしまったよ」

モウスがクスッと笑って
「モウスもこの体は気に入っているモウス」
と、嬉しそうな顔をした。
「玉ちゃんに来てもらったのはモウス。頼みがあるモウス」
「アタシに出来ることかい?」
タマモが身を乗り出す。
「玉ちゃんにしか頼めないモウス」
モウスは真っ直ぐにタマモを見た。

「頼みは2つあるモウス。まずはキヨコのことモウス。一年間でいいモウス。キヨコを鍛えて欲しいモウス」
「鍛えるって何をだい?体力かい?腕力かい?能力かい?精神力っていうのもあるな」
タマモが首をひねった。

「全部モウス。キヨコにはまだ秘めた力があるモウス。それを覚醒させて欲しいモウス。やり方は玉ちゃんに任せるモウス。外見に惑わされず、本物の姿が見えるようにして欲しいモウス。器の中身、魂が見えるようにして欲しいモウス」
「魂が見えるようにだって?そりゃあ、大仕事だ。一年くらいの修行じゃ無理だよ」
「大丈夫モウス。キヨコは賢い子モウス」

タマモが呆れたように手を広げた。
「キヨコが賢いのは分かっているさ。それでも時間はかかる」
モウスは一年という期間を譲らない。
「キヨコはきれいな器が好きモウス。すぐに見惚れるモウス。心配モウス」

タマモがプッと吹き出した。
「はははっ!確かにキヨコは面食いだ!キヨコが外見だけの男に騙される未来が見えたのかい?いや、口にするな。何も言わんでいい。モウスが口にしたら予言になっちまうからな。アタシだってキヨコが騙される未来なんかクソ喰らえだ。わかったよ。一年間、みっちりキヨコを鍛えてやる」

そう言うとタマモは
モウスを軽く小突き
「んで、もう一つは何だい?」
と、次の頼み事を言うように促した。

「もう一つは…モウスが死んだ後のことモウス。死んだらモウスは〝さえの神〟になるモウス。そうなったら件(くだん)ではなくなるモウス。未来も見えなくなるモウス。そして自分がモウスだったことも忘れてしまうモウス。キヨコのことも玉ちゃんのことも忘れてしまうモウス。忘れたくないモウス。だから〝さえの神〟にモウスのことを話して聞かせて欲しいモウス」
モウスは難しい顔をして
鼻をひくつかせた。

「なるほど、そうだね。トキヤみたいに前世を覚えている奴は稀だからな。うん、わかったよ。アタシが知る限りのことを教えてやる」
タマモの返答にモウスは顔を綻ばせた。
「ありがとうモウス。これで心置きなく逝けるモウス」
モウスは床下から
ゆっくり視線を上げた。
キヨコが眠っているであろう辺りを見上げ
手を合わせる。
「モウスはずっとキヨコの幸せを願っているモウス。玉ちゃん、頼んだモウス」

タマモは「ふん」と鼻を鳴らした。
「まったく、過保護だねぇ。キヨコの幸せはキヨコが決めるんだ。キヨコが選んだ道が幸せの正解だよ」

〈続く〉