「モウスの毛に包まれるのは嬉しいけど、このまま動けないのは困るよね」
気を遣いながらオミ君が言う。
その通りだ。
袋に吸い込まれなくて良かったが、
指一本動かせず
視界も遮られている。
大きくなるか、
小さくなるかしか
変化出来なかったモウスが
この土壇場で
初めて体毛だけを伸ばし
だだっ広い部屋の床から天井まで
びっしり埋め尽くしたのだ。
自由に操れるのか不安はあるが、
キヨコたちだけを自由にできるか
聞いてみた。
「…やってみるモウス」
モウスは眉毛を引っ張り
真剣な顔で目を寄せる。
スルスルと毛が動き
キヨコの視界が開けた。
オミ君が見え、
カマスショイの袋も見えた。
吸引は続いているのか
モウスの毛が袋の口を塞いでいる。
オミ君とキヨコは自由の身になった。
2人はモウスに
お礼を言おうとして
ぶーっと吹き出してしまった。
モウスが眉毛を引っ張って
寄り目になっている姿は
面白すぎる。
ダメだ!
笑っちゃいけない。
モウスは真剣なのだ。
キヨコは口を押さえ
太ももをつねって
笑いをこらえる。
モウスの毛は部屋を蠢き
リッチーとカマスショイだけに巻きついた。
その毛はモウスのヘソ辺りから伸びている。
「締め上げるモウス。許さないモウス」
モウスは
強く眉毛を引っ張りながら、すごんだ。
引っ張られた眉毛とともに
上瞼も引っ張られ
目玉がこぼれ落ちそうだ。
その目玉が寄り目になっている。
凄んでも全く恐くない。
逆に
笑わそうとしているとしか思えない。
リッチーはモウスが見えないので、
キヨコたちが
思わず噴き出してしまったことも
口を押さえて笑いをこらえていることも
全く理解できない。
いや、
それ以前に何故自分が動けないのか
分からないはずだ。
見えない縄で
がんじがらめに縛られている感覚だろう。
「何なのよ!これ!どうなっているの?あなたたち、何が面白いの?」
リッチーが叫ぶ。
自分だけ面白いものが見られないのは
仲間外れにされているようで
悔しくてたまらないのだ。
2人を拘束したのはいいが、
さて、この後は…
と、考えていた時、
変な匂いがしてきた。
「ん?焦げ臭い。」
なんと!
タマモの入っている袋から
白い煙が上がっている。
袋は赤い炎を上げて燃え出した。
このままではタマモが燃えてしまう。
キヨコは近くにあったクッションを
バンバン叩きつけた。
「玉ちゃん!玉ちゃん!」
必死に叩いたが
火はなかなか消えない。
それどころか
火力が強まっている。
「痛い!痛いよ!キヨコ!やめとくれ!」
炎の中からタマモが現れた。
「この火は狐火さ。狐火で袋を燃やして出てきたんだ。アタシは大丈夫だよ」
タマモが右手を上げてポーズをキメた。
相変わらず、ふざけている。
「カマスショイの袋の中はドラエモンの四次元ポケットみたいになっていて広いんだよ。そこでB-7を探すのは苦労した。随分と手間取ったが、ほら、見つけたよ」
タマモが銀色の箱を見せた。
そして
「心配かけたね。もう大丈夫だ」
と、キヨコを抱き寄せた。
ふざけているくせに
こういうことをするから
タマモはずるい。
キヨコの張り詰めていた気持ちが
涙になってこぼれ落ちた。
「さあ、お目当てのB-7は手に入れた。もうここに用はない。行くよ!」
タマモが号令をかける。
「待つモウス。まだこいつらがいるモウス。許さないモウス」
モウスがタマモに訴えた。
眉毛を引っ張ったまま
寄り目になって
ヘソ毛でリッチーたちを捕らえている。
タマモはモウスを見たが、
くすりとも笑わなかった。
「モウスはお怒りだね。アタシが袋の中にいる間、何があったか知らないが、こいつらがB-7を盗み出し、細菌兵器だと分かっていて使ったことは重罪だ。モウスの言う通り、お仕置きが必要だね」
〈続く〉