「何でもだって?あはは…大きく出たね」
Dr.ホクリンは
楽しそうに笑ったが、
サッと笑顔を消す。
そして
能面のような顔を
タマモにズイッと近づけた。
まるで
ヤンキーの睨み合いみたいだ。
鼻と鼻が触れそうな距離で
Dr.ホクリンもタマモも
一歩も引かない。
「交換の品は…プラスチックだ」
Dr.ホクリンが押し殺した声で
物々交換の品を提示した。
「プ…プラスチック?」
睨み合いには
動じなかったタマモが
予想外の代物に虚をつかれた。
そんなタマモの様子に
Dr.ホクリンは薄笑いを浮かべ
至近距離から離れた。
「そう、プラスチックだ。世界中のプラスチックを全て集めてくれ。海中のマイクロプラスチックも全てだ」
「そんな…無理だ」
オミ君が絶望的な声で呟く。
「マイクロプラスチックって言ったら5mm以下の大きさだよ。環境問題で重要視されているけど、小さすぎて回収困難なんだ。そんなの絶対無理!」
「無理なら、この話は無しだ」
Dr.ホクリンはスパッと切り捨てた。
「プラスチックを集めてどうするの?」
キヨコの問いにも
「答える必要はない」
と冷ややかに言ったきり
腕組みをして目を閉じた。
取りつく島もない態度に
キヨコたちは言葉を失う。
黙ったままのキヨコたちに
Dr.ホクリンは見切りをつけた。
「さ、この話はもう終わりだ。交渉不成立!」
そう言うと
キヨコたちを追い払うように
シッシッと手を振って
地下室に向かった。
キヨコは慌てて
引き止めようとしたが、
それより早く
モウスが
Dr.ホクリンの行く手を塞ぐ。
「違うモウス。ドクター本当はプラスチックなんて欲しくないモウス。地球のためモウス」
モウスはブルっと体を揺すった。
「地球はプラスチックが嫌いモウス」
体長2mのモウスが
Dr.ホクリンを見下ろしている。
「地球はプラスチックが嫌い…か」
タマモはおうむ返しをすると
ふんふんと何やら考えて
パチンと指を鳴らした。
「はは〜ん、わかった!アンタは地の神の声を聞いたんだ!地球の嘆きを聞いたんだね?アンタはプラスチックが欲しいわけじゃない。地球の声を聞いて、処分しなきゃならないゴミをアタシたちに拾わせようとしたんだ」
Dr.ホクリンは落ち着かない様子で
ガリガリと頭を掻いている。
「地の神の声?地球の声?」
何のことやら…。
地球が喋ると言うのだろうか。
キヨコは答えを求めるように
タマモを見た。
「ああ、地球の声だ。アタシたちは地の神の声と言っている。戒めの声だ。長いこと生きているアタシでさえ、その声を聞いたことが無い。実際に地球の声を聞いたヤツに初めて会ったよ」
タマモの鼻息が荒い。
「本来の物々交換はお互いが欲しい物を交換するもんだ。プラスチックは違う。これはダメだ。アンタ、アタシらを利用しようとしたね?図星だろ?」
Dr.ホクリンは口をへの字にしていたが、
観念したように喋りだした。
「そうだよ。その通りだ。白状する。僕は地球の嘆きを聞いた。いや、聞いたというより、感じたと言った方が正しいだろう。人類は終わる。それが地球の意思だ。今まで人間は好き勝手をしてきたからな。つけを払うしかない」
「そんな…」
オミ君が泣きそうな声を出した。
Dr.ホクリンはチラッとオミ君を見たが、
話を続ける。
「ガイア理論を知っているかい?地球が自己調節能力を持ったひとつの生命体だとみなす説だ。地球をひとつの巨大な生命体だと考えて想像してくれ。生物には自らを守る自己調節システムがある。君たちも暑かったら汗をかいて体温を下げ、寒かったら震えて体温を上げるよね?」
キヨコとオミ君が頷いた。
「例えばここに蚊が大量発生したらどうする?」
問われてオミ君が答える。
「刺されたら嫌だから叩いたり、殺虫剤をまいたりします」
「そうだよね。害虫だから殺してもしょうがないよね。地球にとっての人間はどうだろう?地球にとって害を与える存在になっていないかい?異常気象も疫病も人類を滅ぼすための地球の免疫機能だとは考えられないかい?」
黙って聞いていたイガシチが
暗い声で同調した。
「人間は水を汚し、空気を汚し、自然に還らないプラスチックをまき散らした。つまり、地球の健康のために人間は不要だと思われても仕方ない存在だってことだ。人間としても、発明家の端くれとしても、責任を感じるよ」
Dr.ホクリンが頷いた。
「環境破壊を引き起こしている人間は、地球から有害とみなされた。すでに地球の自己調節システムが作動している。そのシステムを止めるにはプラスチックの排除が1番なんだよ」
また全員が口を閉ざした。
全てのプラスチックを排除することが
どれだけ不可能に近いことか
全員が理解している。
それだけプラスチックは
人間の生活に密着しているのだ。
見て分かるプラスチックだけじゃない。
スクラブで洗顔したら研磨剤が、
フリースを洗濯したらファイバーが、
マイクロプラスチックとなって
下水処理場をすり抜け海に流される。
それをどうやって回収すると言うのだ。
沈黙を破ったのはタマモだった。
「ドクター、すぐに解決案が見つからないよ。悪いが、アタシたちを地球の声が聞こえるところに案内してくれ。アタシたちも地球の声を感じて未来を考えたい」
Dr.ホクリンは黙って頷き
地下室へ招き入れた。
〈続く〉