オミ君が少し大人びた笑みを浮かべ
掌を差し出す。
吸い寄せられるように
タマモがオミ君の手に降り立った。

「トキヤは何度も生まれ変わって…全くご苦労なこった」
タマモが皮肉を言うと
オミ君も喰い気味に言い返した。
「タマモこそ、ずーっと死なずに、ご苦労さんだよ」

タマモとオミ君は
2人にしか分からない会話をして
2人だけで笑った。
そこに割り込む余地は無い。
キヨコは黙って
2人を見ていた。

「それにしても老けたな。ふるいつきたくなるほどの美貌だったのに…」
とても10歳の少年が口にする台詞ではない。
タマモは眉間にシワを寄せた。

「相変わらず口が悪いねぇ。可愛らしい10歳の少年が言う台詞じゃないぞ。それに年寄りは敬うもんだ。ましてや女性に老けただなんて失礼にも程がある。あんたさ、昔は散々アタシに言い寄ってきたくせに…お忘れかい?」

オミ君がタマモに言い寄った⁉︎
キヨコの中で
何かがガラガラと崩れていく。

オミ君は慌てて「しっ!」と
人差し指を口に当てた。
「おいおい、そういう話はやめてくれ」
オミ君は小声でタマモを嗜めると
チラッとキヨコを見た。

目が合った瞬間に
キヨコは視線を外す。
オミ君はバツ悪そうに頭を掻いている。
サラサラヘアが乱れた。

「2人は知り合いでモウスか?」
未来予知は出来るのに
男女の関係には鈍感なモウスが
不思議そうに聞いた。

オミ君はホッとした表情で
モウスに顔を向けた。
「うん、そうなんだよ。最後に会ったのは、もう何百年も前だけどね」
「え?オミ君は10歳じゃないモウスか?」
モウスは驚いてオミ君をまじまじと見た。
「あはは!肉体は10歳だよ。でも僕は輪廻転生を繰り返しているからね、肉体は滅んでも魂は死なず、何度も別の肉体に宿って生きているんだ」

オミ君は掌のタマモを
モウスの目の前に出した。
「そして、タマモは死なない妖怪だ。いや、正確には死んでも再生できる妖怪と言った方がいい。そして、一度は僕が殺した」
オミ君はニヤリと悪い顔をした。

「こっ!殺したモウスか⁉︎」
モウスの声が裏返る。
すかさずタマモが声を張り上げた。
「そうなんだよ!その時のトキヤは偉そうな坊さんでさ、アタシを成敗するとか言ってトンカチで殴ったんだよ!酷いだろう?」

オミ君は違うというように
ぶんぶん手を振った。
「あれは仕方なかったんだよ。九尾の狐が悪さをしているから何とかしてくれって、高貴なお方に頼まれちゃったからね」

タマモは飛び跳ねて反論する。
「悪さなんかしてないよ。アタシはハメられたんだ。それで仕方なく殺生石に隠れていたんだよ。それなのにトキヤ…いや、その時は玄翁(げんのう)和尚だったね。トンカチで殺生石を砕いたんだよ」
「大したことないだろ?不死身なんだから」
「はぁ〜?何だって⁉︎そもそもアンタはさ!」

それから暫くギャンギャンと
タマモとオミ君の言い合いが続いた。
2人は
千年以上も前からの知り合いらしい。
中国が唐と言われていた時代に
2人は初めて出会った。
タマモが日本に渡る船の中で
オミ君はトキヤスと言う名の
遣唐使だったらしい。

タマモとオミ君は
何度も出会い、何度も別れた。
そして最後に会ったのが
九尾の狐と玄翁和尚という
シチュエーションだった。
タマモはトンカチで殴られたことを
未だに根に持っているが、
オミ君は意に介さず
しれっとしている。

キヨコは
なんとなく2人の関係がわかって
急速に恋心が冷めてしまった。

「ねぇ、そろそろ学校に着くし、昔話から現在に戻ってきてくれる?」
キヨコの落ち着いた物言いに
2人は慌てて頷いた。

「そうだった!うっかり昔話に夢中になってしまった」
オミ君がモウスの前に立った。
いつものキリリとした表情だ。
「さて、モウスくん。君は不穏な奴らが日本を滅ぼすって予言をしたかい?」


       〈続く〉