ナツキが部屋を出ると
飯島も腰を上げた。

「私、子供は苦手なの。特にジン様は…。だから、私も失礼するわ。3日後に迎えに来るから後はよろしく!」
「え?3日後って⁉︎ 3日間もオレはここで何を?」
オレの問いかけに答えもせず
飯島は逃げるように立ち去った。

嘘だろ?
ここでこいつと3日も?
こんな悪ガキと一緒に過ごせって?
オレはジンを見た。
ジンはニタっと笑った。

「人に使われるって大変だね。僕は使う立場だからわからないけど」
ジンはスタスタと歩いて部屋を出た。

生意気なガキだ。
誰が人を使う立場だ?
誰もおまえに使われているんじゃない!
おまえの母親に使われているのだ。
勘違いして育ちやがって!
可愛げのない子どもだ。

庭から悲鳴が聞こえた。
見ると
メイドたちが逃げ惑っている。
ジンがホースで水をかけて
追いかけ回しているのだ。
1人のメイドはびしょ濡れで
全身からポタポタと水が滴っている。

オレは蛇口の栓を閉めた。
ホースの水の勢いが無くなり
ジンが不満げな顔をオレに向けた。

メイドは震えている。
冷たい水をかけられて冷えたからか、
ジンが恐ろしかったからかはわからない。
でも
面白がって使用人に水をかけるジンを
オレは許せなかった。

オレはジンの首根っこを掴むと
そのまま引きずって
蛇口まで連れて行き
頭から勢いよく水を浴びせた。

ジンは驚き、
逃げようと暴れたが
オレはジンの襟首を掴んで離さなかった。
ジンはずぶ濡れになり、
唇がワナワナと震えている。

オレは水を止めて、ジンを離した。
「やられる人間の気持ちがわかったか?」

ジンは憎しみの顔をオレに向けた。
「よくもやったな!おまえなんか殺してやる!」
ジンは赤く充血した目を吊り上げて言い放った。

「ほう、殺してやるか?おまえは初めて水をかけられたのだろう?その一回で殺してやるって恨んでいるのか?じゃあ、おまえに散々虐められたやつらは何度もそう思っているだろうなぁ?ジン様を殺してやるって!」

ジンは唇を噛んだ。
そして
遠巻きに見ているメイドたちを睨んだ。
「あいつらは使用人だ。僕とは身分が違うんだ!」

「違わないよ。同じ人間だ。水をかけられたら冷たいと感じるし、虐められたら恨みもするんだ。おまえ、そんなこともわからないのか?」

メイドたちが真っ白なタオルを持ってきた。
立ち尽くすジンを柔らかなタオルで包み
丁寧に拭くとバスルームに連れて行った。

悪ガキなんかに負けるもんか。
人として
男として
オレはおまえに屈しない。

オレは覚悟を決めた。
ジンとまともにやり合うとなれば
クビになることも
覚悟しなくてはならない。

あんな子ども相手に
大袈裟な覚悟かもしれないが、
子どもを溺愛する親は
容赦をしないだろう。

逃げずに
真正面から向きあうことの大切さは
このひと月で学んだ。
覚悟を決めてかからないと!

それからオレは3日間、
ジンと格闘し続けた。
悪ガキがどんなイタズラをしたのか
思い出すのもヘドが出る。

ベッドに毛虫が敷き詰めてあったり
湯上りの着替えを隠されたり
靴の中に歯磨きのペーストを入れられたり
トイレのカギを外からかけられたりしたが
そんなことは大したことではない。

オレが激怒したのは
スマホの待ち受けにしてあった
弥生の写真を削除されたことだった。

オレは泣いた。
弥生がこんなガキに消された。
ごめん、弥生。

ジンは、してやったりの顔をしたが、
オレは無視した。
もう、おまえに関わる気にもならない。


      《つづく》