つまりは
真正面から女性に向かえない男が
嫌がらせをしていたってことだ。
好きになったミナミに好きって言えず、
どんどんねじ曲がって行った。
実にバカげている。
いや、待てよ。
真正面から女性に向かえない男…。
それって
つい先日までのオレじゃないか⁉︎
ずっとルミを思い続けていたオレ。
自信がなくて
振られるのが怖くて
何もしなかったオレ。
オレは何を偉そうに言っているのだ。
長谷川とオレは大して変わらない。
嫌がらせをする気持ちは理解出来ないが、
モテない男の気持ちは理解出来る。
自信のない男は臆病だ。
臆病な男は女を守れない。
女を守れない男は
女に好かれないのだ。
オレは山下さんに出会って変わった。
あの日からオレの人生は変わった。
いろんな人と関わって
オレは様々なことを学んだ。
たった10日ちょっとで…。
長谷川には山下さんがいなかっただけだ。
オレは営業部のドアを閉め
夜間出入り口に向かった。
警備員室前はひっそりしている。
窓から覗くと
大きな背中を丸めて
長谷川がうなだれている。
その向こうで水谷が考え込んでいた。
「失礼します」
オレは警備員室に入って水谷に尋ねた。
「警察に届けるのですか?」
水谷は渋い顔をした。
「どうなるかは上司の判断待ちです」
オレは軽く頷いて長谷川を見た。
涙だか鼻水だかわからない液体が
紺色の制服の膝を黒く濡らしていた。
「あの、オレ、中学の時から好きだった子がいたんです。その子がオレの親友と結婚することになって、オレ、親友を恨みました。その子はオレの彼女ではないし、オレは告白すらしていなかったので、恨むのは筋違いなのですけど、親友からその子と付き合っているなんて聞いていなかったから、突然の結婚話にショックを受けて…」
オレは何でこんな話をしているのだろう。
自分でも不思議に思ったが
話さないではいられなかった。
「でもね、親友はオレが彼女を好きだって知っていたのです。それで自分も好きだって言えずに苦しんでいました。親友が苦しんでいるなんてオレは気づきもしなかった…親友なのにね。でも彼は彼女を好きっていう気持ちに正直で彼女に告白したのですよ。勇気がありますよね。彼女は学年1可愛い子でしたから」
「告白成功したの?勇気を出してみるものね」
水谷が聞いてきた。
「いいえ、玉砕しました。でも、彼のすごいところは、振られても、振られても、何度も気持ちを伝えたのですよ。それを知って、オレ、親友を尊敬しました。オレはアイツと同じ土俵にも立っていないのに、羨ましいなんて思ったのですから…そして、その情熱が彼女に届いて結婚です」
「 ふーん、でもそれ、ちょっと間違うとストーカーじゃない?」
水谷の言葉に長谷川がピクッと動いた。
「そうなんです。たまたま上手くいったけど、一歩間違えば危なかったです。でも、気持ちを伝える告白はした方がいいですよね。振られるのがわかっていても、行く勇気が大切で、女性はそういうところを見ているような気がします」
「確かに!誠実に真っ直ぐ、好きだって言われたら、大して気に留めていなかった男でも心が動くわね。優柔不断男より、ずっといいわ」
水谷が女の顔をのぞかせて笑った。
「それでね、今回のことですが、長谷川さんが反省してくれて、もう二度と同じことをしないと約束してくれるならオレは暴行で訴えません」
長谷川はコクッと頷いて
「反省しています。もうしません」
と呟いた。
「ただ、怪文書については…。悩んでいたミナミちゃんは真実を知りたいと思うのです。長谷川さんの口からミナミちゃんに事実を伝えられますか?それが出来るなら、今回の事件はオレが内々に収めます」
長谷川は驚いて顔を上げた。
顔がぐしゃぐしゃになっている。
「無理です!そんな…言えません」
長谷川が泣きながら情けない声を出した。
「何言ってんの!あんた、自分がどんだけのことをしたかわかってんの?本来なら職を失うだけじゃ済まないのに、警察沙汰にしないだけじゃなくて内々に処理してくれるっていってくださっているのよ!」
水谷が大声で怒鳴った。
オレは長谷川の前にしゃがんで
長谷川の顔を覗き込んだ。
「長谷川さん、ミナミちゃんに謝ることはできますよね?悪いことをしたら、ごめんなさいって言うのは人として当たり前でしょう?」
長谷川は口をへの字に曲げて頷いた。
オレはにっこり笑って頷き、立ち上がった。
「では、ついでに課長にも、お願いしますよ」
長谷川は
そっちは聞いてないよと言わんばかりに
首を振った。
でも、オレは
長谷川がそうするだろうと思っていたので
後ろを向いて、気づかないフリをした。
《つづく》