ただ立って
ただ歩く。
そんなこと、
1歳の時から30年近くやっている。

それなのに
なぜオレは出来ないんだ?
なぜ何度も注意されている?

「膝を開くな!ガニ股になるだろうが!肛門を締めろ!腰まで脚だと思え!腰から歩く!頭を揺らすな!膝から歩かない!腕は自然に動かす!前を見ろ!」

元モデルは鬼軍曹のように
容赦ない叱声を浴びせてくる。
その度にオレは緊張し、
ギクシャクと歩く。
情けない。

ヨロヨロしてきたオレを見かねたのか
山下が声をかけた。
「エミリさん、カクテルができましたよ」
紫色のカクテルがカウンターに置かれている。

鬼軍曹はパッと明るい顔になって
カウンターに呼び寄せられた。

「じゃ、今日はここまでね〜」
鬼軍曹の眉間のシワが消え、
目尻がとろんと下がっている。
「じゅたちゃんのスペシャルカクテルは最高!」

オレはようやく解放されだ。
身体中が痛い。
筋肉痛だ。
堪えきれず、カウンターの中で
しゃがみこんでしまった。

「この子、いい子だけど、体力がないわね〜。マッスルさんに頼んだらどう?」
鬼軍曹が山下と話している。

マッスル⁈
いかにもゴリゴリの
いかついイメージの名前だ。
自慢じゃないが運動は苦手だ。
勘弁してくれ!

「ええ、もうマッスルさんに頼んでいますよ」
山下はさらっと言った。
オレは更に鍛え上げられるのか⁉︎



     《つづく》