「無理…だと思います」
山下が一人前の男とは愛を知る人だと言ってから
オレは暫く口を開くことができなかった。
そしてようやく出た言葉がこれだ。
情け無いが無理なものは無理だ。
今まで女性と付き合ったことのないオレが
愛だの恋だの無理に決まっている。
第一、オレは一度もモテたことがない。
バレンタインにチョコをもらったのは
母親からと祖母からだけだ。
女子からモテる条件は
ルックスが大きくかかわると思うが、
それだけではないとも思う。
小学生のときは
スポーツマンがモテた。
かけっこの速いヤツは間違いなくモテた。
オレは女子より遅かった。
しかもチビでデブだった。
まずモテない。
中学生になると
スポーツマンと、
ちょっと不良っぽいヤツがモテたが
当然、オレは当てはまらない。
高校生になると
勉強の出来るヤツや
部活や音楽など
ほかの分野で力を出すヤツも
モテるようになる。
オレは突出する力を何も持たなかった。
大学生になると
しゃべりのうまいヤツもモテた。
女性の前だとあがってしまうオレは
対象外だ。
ずっと、さえない男だったと思う。
しかも、
身長175cm 体重75kg の、ぽっちゃり体型。
お世辞にも
見た目がいいとは言えない。
スポーツは苦手、
部活は将棋部だった。
部員は男性だけで、
ここでも女性と無縁だった。
就職活動は散々だったが、
たまたま今の会社の面接官が将棋好きで
運良く入社できたのだ。
だから仕事だけは頑張った。
オレの自慢できるところは
仕事だけだ。
そして、今、オレは
一人前の男は愛を知る人だと言われている。
絶望的じゃないか!
オレは一人前の男になれないのか。
ルミ…可愛かったなぁ。
そのルミが、ケンジと結婚する。
ケンジと…、いや、待てよ。
ケンジはオレの親友だ。
小学生の時からの仲良しだ。
ケンジもオレと同じように、
いやオレ以上に
チビでデブでバカだった。
それがどうして?
学年で一番の美人と結婚できるのだ?
「無理ですか…。私はそうとは思いませんがねぇ」
山下がオレを見据えた。
「藤谷さんは不釣合いだなと思うカップルを見たことはありませんか?『どうしてあんな男とあんな美女が?』なんて不思議に思ったこと、あるでしょう?」
今、まさに思っているところだ。
ルミとケンジは不釣合いだ!
だったらオレにも
チャンスがあったかもしれないじやないか!
《つづく》