2016年10月2日、後楽園ホール。
自身の進退を賭けたその大会のメインで見事勝利を収めた大家さんは、満員の観客に結婚と新たな命を授かった事を報告した。
感動で揺れる後楽園ホール。
大家健とガンバレプロレス、満員のユニバースがあの大仁田さんを飲み込んだ様に思えた。
初の後楽園ホールを大成功に終えたガンプロはここからますますメジャーになっていく!はずだった…
一方藤田ミノルさんはセミで別れた元妻、藤田早紀さんとタッグマッチで対戦していた。
前妻を躊躇することなく攻め込むも最後は藤田早紀さん、円華さん、そしてパートナーのバンビさんにまで集中砲火を浴び敗戦。
試合後の元奥様からは「お前は死ぬまでプロレスやってろ!」と何とも愛情に溢れた胸に突き刺さるお言葉。
藤田さんがガンプロに参戦するきっかけが少なからずこの離婚にある事は間違い無いかと思うのだが、ここで一つの決着が見れた。
そしてしばらく時は流れて迎えたあの日、新木場の光景を文字通り苦虫を嚙み潰したような顔で見ていた藤田さんはガンプロから去った。
その後の藤田さんはますます狂い咲き、プロレス界という泥沼の中で怪しくそして人一倍鋭く輝き続ける事となる。
明日二人は再びリング上で対峙する事となった。
ガンプロを去った理由が分からなかった大家さんに藤田さんは辛辣な言葉で胸を抉った。
「俺は、おまえらとは目指すところは一緒でも方法が全然違うことに気づいた。だからこのガンプロを去ったんだよ。」
「俺は自分の気持ちに嘘をつくようなプロレスはしてねえよ。」
「おまえの正義をぶつけてみろ。俺の正義を後楽園ホールでてめえにぶつけてやるよ。」
無表情で無機質に心臓を突き刺さす様なその言葉に大家さんはあっさり自分の弱さを認めてしまった。
…。違う、そうじゃない。
弱さを曝け出しても、負けても負けても葉を食いしばって頑張って来たのがガンプロ。
でもあの時ははっきり言って欲しかった。
違う、お前は何も分かってないと。
先日の記者会見でも藤田さんからの手紙は読む人の心を大きく揺さぶり、そしてまた大家さんを追い込んだ。
代読した今成さんの心の中のモヤモヤに少しずつ火を着け、遂には爆発してしまう。
藤田さん、今成さんから追い込まれた大家さんは言ってしまう。
「背負えてねえかもしれねえよ!」
「覚悟はないのかもしれねえよ!」
…。違う、そうじゃない。
かれしれない、でも頑張る、かもしれない、でもやるしかない。
僕が聞きたかったのはそんな言葉じゃなかった。
負けても負けても這い上がって無様にでも勝つ、弱くて泣いてもがいてでも最後は勝つ。
確かにそれがガンプロの歴史だったかもしれない。
でも。
そろそろ強くて格好良い大家健も見たい。
藤田ミノルを前にしても一歩も退かない、あの怪しく鋭い光すら包み込む様な強くて明るい光を放つ大家さんを。
そして僕は知っている。
ガンプロや仲間たちに飛んでくる石を誰にも言わず、気付かせず体を張って守って来た大家さんの本当の強さを。
藤田さんがガンプロを見限った2017年11月3日新木場の大会名は「青いイナズマ2017」、そこに現れたあの三人。
そして藤田さんにコテンパンに言い負かされながらも今回の一騎討ちが決まった後に大家さんが大会の締めに選んで叫んだ言葉。
「みんなで」「頑張りましょう!」
偶然か藤田さんへの対抗心か…
どんな時もくじけずにがんばりましょう
かっこ悪い毎日をがんばりましょう
結婚して子供も生まれ守るものが増えた事でよりプロレスに人生を賭ける不器用な男か。
離婚して家族と離れ人生を犠牲にしてまでもプロレスを続ける不器用な男か。
ガンプロ二度目の後楽園、あの時と同じノーロープ有刺鉄線。
あの日メインで華やかに輝いた大家さんとセミで静かに輝いた藤田さん。
さて。