僕がレフェリーの見習いを始めた頃のお話。


若手の筆頭的な立場に安部さんはいました。

グレースさんが公認する様に、また多くのお客様が絶賛していた様に安部さんの働きは素晴らしかった。

「どこそこの若手は安部のセコンドを見習って欲しい」

よくそんなファンの方の声を聞きました。


僕にもとても優しく仕事を教えてくれたし、アドバイスも沢山してくれました。

練習し始めて何回やってもカウントでマットを叩く音が大きく出なかった時、選手練習の休憩の間ずっと付き合って一緒に練習してくれた安部さん。

合同練習でマットを叩き過ぎて手首から出血した時も、僕の微妙な手のかばい方でその異変にいち早く気付いてくれたのが安部さんでした。


学生時代は同じ野球部出身でしたが、安部さんのいたチームは超名門。

趣味レベルでしかなかった自分とも楽しそうに野球の話をしてくれた事は今でも覚えています。

僕が専門学校で講師をしていた頃、その学校の野球部の監督になりました。

そのチームのキャプテンになった生徒が安部さんの友達。

そんな偶然もあり、プロレスの話以外でもよく話す機会がありました。


でも僕が気付くのが遅すぎた。

あのちょっとはにかんだ様な人懐こい笑顔。

その笑顔がプロレスの話をする時には見れなくなっていた事を…


その日は突然やって来ました。

安部さんが悩んでるって話は聞いていたし、男色さんがそれに関するドキュメントを撮っているのも知っていました。

新木場の試合後、安部さんの希望でお客様を全員出した後で飯伏さんとの一騎討ちが始まりました。

見守るのはDDTの選手とスタッフのみ。

飯伏さんは安部さんの気持ちに答える様に、安部さんの心に問いかける様に闘っている様に見えました。

憧れの飯伏さんとの野良試合で安部さんはプロレスへの、DDTへのアツい気持ちを取り戻す。

僕を含めたみんながそう思っていたはずでした。


でも。

でも試合を終えた安部さんが出した答えは全く反対でした。

僕は突然の出来事に頭が混乱して安部さんが何て言ったか分からなかった。

安部さんは泣きながらその場にいた全員と握手をしていきました。

僕は安部さんが近づきいてくるに従って、何が起きているのか少しずつ理解出来てきました。

理解したくはなかったけど、残酷な現実は無理やりにも少しずつ僕の頭を支配し出したのです。

僕の番になりました。

「短い間でしたけど、本当にありがとうございました」

優しかった先輩は、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら強く手を握りそう言いました。

僕がデビューして一年足らず、本当に短い間でした。

デビューする前に一緒に過ごした時間の方が長かった。


あれから約3年と10ヵ月。

安部さんとまた交わる日が来ました。

安部さんが自らの手で止めた時計の針を、自身の手で動かす日が来たのです。

ヤングドラマ杯で争った後輩の石井さんは若手のエースから抜け出そうとし、KO-Dタッグを巻き全日本プロレスに上がりアジアタッグ王者にまでなりました。

安部さんからプロ初勝利を上げた平田さんは6人タッグ王者になり、謎のダンスがブレイクして両国のエンディングの中央にいました。

安部さんの事を知らない若手が何人もデビューし、安部さんの事を知らないファンの方も多くいます。


それでも戻って来ようと決意したその覚悟。

受け止めるのは今成さんです。

そう、あのドキュメントのディレクターだった今成さん。

飯伏さんとの試合では立場を忘れ、「安部ちゃん、安部ちゃん!」と必死に声をかけていました。

DDTから逃げ出そうとしている安部さんに、かつて中京テレビから逃げ出した自身を重ねていたのかもしれません。


あの時とはもう全く異なる現実と景色。

不思議な縁が巡り合わせた二人の闘いは何が見えるのか。

二人が作り出す新しい現実はガンプロに何をもたらすのか。

もうあの時とは全てが違う。

人の評価も印象も状況も全てが違う。

記憶は薄れ心の闇に消えていく。


安部さんの退団寸前の2011年1月3日、ユニオンプロレス後楽園大会。

試合の無い安部さんもセコンドで来ていました。

大家さんと菊地さんのパン食いデスマッチの次の試合。

当時ユニオンプロレス、いやDDTグループも超期待の新人だった富永真一郎のデビュー戦でした。

パンクズだらけだったリングを見て安部さんは僕にこう言いました。

「木曽さん、リング丁寧に掃除しましょう。一生に一回のデビュー戦だからキレイなリングで試合させてあげたいんです」


安部さんに対する僕の時計の針はあの時のままで止まっています。

最後の最後まで周りを気遣い、人に優しく頼りになる先輩だったあの時の。


安部行洋、今成夢人、冨永真一郎、そして大家健。

運命の悪戯かあの時の登場人物が今日の会場に揃います。

何かが起きるのかもしれないし、受け入れたくないような残酷な現実が待っているのかもしれない。

それでも、それでもあと数時間で僕の時計の針も再び動き出します。



『ガンバレ☆プロレス~第二章 2nd Season~ vol.8 in西調布』

11月16日(日)


開場

17時30分


開始

18時

■会場

西調布格闘技アリーナ


〒182-0035
東京都調布市上石原2-40-6 B1F

※京王線西調布駅徒歩3分

■チケット
全席自由席3,500円(当日500円up)


え~会場ではそのドキュメントDVD『男色牧場クラシック1』も特別に販売しますので是非お買い求め下さい!

本来は通販限定ですが今日は特別!価格は2500円です!

仕事もちゃんとしないとね!きそぺろ☆