話題は「私、結婚したら家庭に入る」だった。
今はもちろん、結婚は考えられないというものの、この二文字はどうやら願望のように聞こえた。


某短大を卒業し、女優をめざす女子。
彼女のなかでは、まだまだ業界も未知なる世界。
わたくしが以前、彼女に伝えていた「女優は男だから。結婚はしない」というステータスは彼女にとって「それは昔の話。いまはちがう」と反論する。

そうかもしれないが、若い役者でも、今を生きて、のめり込んでいたら「結婚」という文字はない。
今のことに集中しているからね。


彼女はまだこれといった仕事はしていないから、実感できないのは当然だ。
で、突き詰めると「でも分かりませんよ、家庭に入っても、女優を続けるかもしれないし、、、結婚しないかもしれないし、、、」
と言い直した。

わたしの熱に圧倒され、ふいに出た言葉だったのかもしれない。



彼女が時折、話題に出すプロダクションのこと。
同郷出身の人気役者が所属しているのだ。
どうやら、兄はこの役者と同級生らしい。

わたくしと出逢う前、彼女は兄とその役者の話題が盛んであったようだ。
わたくしはきっぱり言った。

「悔いなく、そこに行くなら止めないし、行きたいなら行きなさい。あなたが決めることだし、わたしはあなたが幸せになってくれたら、それで嬉しいからね」

わたくしは少し、投げやりになっていたのだろう。
もちろん、本心も伝えた。
(ちなみに、そこは役者だけ所属させていて、モデルはいないようだ)


「行かないです」
わたくしもついついしつこくなり、同じことを繰り返し。
「たから、行かないですって。言ってるじゃないですか、、、」

彼女にとったら、酷な話かもしれないが、甘える年齢でもないのだ。
そこをクリアにしないと、彼女のなかでも納得できないだろうし、兄の助言がどこまでなのかを突き詰めたかったのだ。

お酒の勢いでしか、役者と話せないこともあるが、彼女の幸せを考えている。

そう。
わたくしがいちばん最初、この女子に会ったとき、泣いた姿が今でも忘れられない