(@DIME)
足のムレとニオイが気になる夏が近づいている。しかし、蒸れず臭わない靴下を履いていたら、そんな心配は無用。このような夢のような靴下が、岡本の『SUPER SOX(スーパーソックス)』である。『SUPER SOX』は2004年に発売され、これまでの販売数が800万足を超える同社のヒット商品。最大の特徴は、ムレを抑えニオイの原因となる細菌の繁殖を少なくし、高い消臭力も持つ独自開発の「BREATHE FIBER(ブリーズファイバー)」を採用したことにある。これからの季節、不快な足のムレとニオイを抑えるのに最適な靴下だが、完成までに実に6年の年月を要した。
開発が始まったのは1998年のこと。きっかけは、岡本哲治社長の「ほんまもんの靴下をつくれ」というひと言だった。この発言の真意を、社長室広報担当の加古真由子さんは次のように説明する。
「靴下業界は価格競争に陥っていますが、靴下メーカーの社会貢献は、機能面で優れ、快適に思える商品を提供することです。ほんまもんの靴下とは、社会に貢献する靴下のことで、このミッション達成のために『SUPER SOX』は開発されることになりました」
岡本
社長室広報担当
加古真由子さん
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岡本社長のひと言を受け、同社内に快適靴下開発プロジェクトが発足した。プロジェクトがまず取り組んだのが、300人の消費者を対象にした清潔意識調査。1999年に実施されたが、調査で〈長時間、靴を履いていて気になること〉を尋ねたところ、1位がムレ、2位がニオイであることが判明する。「弊社ではこの2つを国民的悩みと捉え、ムレとニオイを解決できる靴下がほんまもんの靴下として最適なのではないか、となったわけです」と加古さんは言う。
しかし、真の意味で「ほんまもん」の靴下をつくるには、ある点をクリアしなければならなかった。それは、使い続けても効果が落ちないこと。『SUPER SOX』以前にも、消臭機能を謳った靴下はあったが、それらは薬剤を定着させたものであり、洗濯を重ねると効果が減少する。「これでは、ほんまもんの靴下とはいえない、というのが弊社の考えで、素材から見直すことにしました」と加古さん。つまり、「BREATHE FIBER」は『SUPER SOX』の開発が決まったことで開発されたものなのである。
素材から開発するという大きな決断ができたのは、研究開発を担うR&D部があるため。靴下専業メーカーに研究開発部門があるのは珍しいが、同社には独自技術を生かした商品づくりを可能にする体制ができていた。
「BREATHE FIBER」はウールがベースになっている。ウールは放湿性、吸湿性に優れ、なおかつ抗菌機能や消臭機能を持つ高機能な天然素材である。だが、「BREATHE FIBER」は最初から、ウールで開発されたわけではなかった。当初は綿を使って開発を進めたが、実験で吸湿性は確認できたものの、放湿性が確認できなかったことから、綿を断念する。
「汗は90%以上が水分で、本来は無臭。足が臭うのは、高温多湿の密閉状態にある靴の中では細菌が皮脂や汗を栄養素として多く繁殖し、イソ吉草酸などのニオイ成分を発生させるためです。臭わないようにするには、まず蒸れない環境をつくらなければならず、放湿性が確認できない綿は素材として向きませんでした」(加古さん)
ベースとなる新たな素材探しに迫られた同社だったが、素材に関する多くの知見を持つR&D部は、次の候補としてウールを選定した。しかしウールは、靴下のように肌に直接触れる衣類に使うには、次の3つのデメリットがあった。
●毛玉ができやすい
●チクチクする
●縮む
ウールが本来持つ優れた機能を生かすためにデメリットを消す。これが、『SUPER SOX』開発のポイントとなった。
ウールに毛玉ができたり、肌触りがチクチクするのは、表面にスケールと呼ばれる鱗状の組織があるため。スケールがあるためにチクチクと感じ、擦れることでフエルト化し毛玉となる。したがって、スケールを取り払えば毛玉の発生やチクチク感を抑えられるが、問題は、スケールを取ると強度が落ちること。強度を落とすことなくスケールを取るかが課題となった。
この問題を解決するべく、同社は架橋結合という技術を開発した。架橋結合とは、繊維同士を結合することで毛玉をできにくくし、同時に表面を滑らかにするもの。また、縮みやすいウールを縮みにくくし、伸縮によって起きる染色ムラを防ぐこともできるものであった。
ウールの電子顕微鏡写真。左がスケールを取る前、右が架橋結合でスケールを取った後。
こうして同社は素材の開発にメドをつけ、2001年から西日本で『SUPER SOX』のテスト販売を実施する。テスト販売は徐々に得意先を増やし、期間は全国販売の直前までと長期にわたった。この間も、強度などに関するクレームを解消すべく研究開発を継続。その一方で、生産面では糸切れを起こしたり、編み目が悪いといった問題を抱えていたことから、編機の調整などに追われた。
そして全国発売直前に、社内モニターテストを実施。岡本社長をはじめとした社内スタッフが5日間連続で履き続けたところ、臭わないことを実感した。実力はまさに、「ほんまもん」にふさわしかった。
『SUPER SOX』の全国発売と同時に、同社は早期の認知を図るべく、あるキャンペーンを展開する。東京駅八重洲口で2日間、新幹線の切符を見せてくれた人に『SUPER SOX』をプレゼントしたのである。キャンペーンの狙いは、新幹線の車内で『SUPER SOX』を履いてもらうこと。2日間で4000足配布の予定だったが、実際には7000足にまで達し、盛況のうちに終了した。
発売開始直後、東京駅で行なったキャンペーン。
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その後はキャンペーンの効果もあり、発売当初から売れ行きは好調。リブ編みクルー丈で一足800円(税別)と高価だが、テスト販売の実績もあり、主な卸先である量販店でも、価格面で難色を示されることなく取り扱ってくれたという。『SUPER SOX』が着実に販売を伸ばしていった理由の一つに、2007年から始めた「足クサ川柳」がある。足のニオイに関する様々なエピソードを川柳で笑おうというもので、販促の一環でスタートした。これまでに10万句を超える作品が集まるほど、好評の企画だ。
こうした取り組みにより、『SUPER SOX』は年間で100万足以上売れたこともあった。しかし加古さんによると、ずっと順調だったわけではなく、2009年頃に2つの理由から、売れ行きがやや落ち込んだ。第一の理由が、「足クサ川柳」以外に目立ったプロモーションを行なわなかったこと、そして第二の理由が、デフレであった。この苦境から脱するため同社は、それまでビジネスユース向けだった『SUPER SOX』にデイリーユースの低価格品を投入したほか、2010年に要望の多かった女性用の『SUPER SOX for ladies』を発売。女性用がきっかけで、新たな販路としてドラッグストアを開拓することに成功した。
『SUPER SOX』は40代や50代のビジネスマンをターゲットにしてきたが、この数年は30代後半も対象にしているという。そのため、商品の見せ方も変えることにした。まず、スタイリッシュな箱型パッケージを投入。また、それまでは「蒸れない」「臭わない」といった機能面を全面に打ち出していたが、エチケット意識の高い世代を取り込むため、打ち出し方も見直した。キーワードは「好感度」だ。
「30代後半のキーワードは、好感度だと思っており、好感度をアップするには靴下から変えましょう、とアプローチする流れになっています」(加古さん)
箱型パッケージの裏面。機能よりも好感度アップを意識させるフレーズが目立つ。
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箱型パッケージ用の什器。左は父の日向けで、それが終わると右のように、キャッッチコピーを変えて使う。
★★★取材からわかった『SUPER SOX』のヒットの要因★★★
1.ウールの使用
ウールは高機能な天然素材。課題もあったが、足のムレとニオイという国民的悩みを解決する素材として、これ以上のものはなかった。
2.継続的なプロモーション
発売と同時に大々的なプロモーションを展開したことで、消費者に早く認知してもらうことに成功。その後も「足クサ川柳」のようなプロモーションを継続することで、定着を図ることができた。
3.完成度の高さ
高機能を謳っても、それは実際に体感しなければわからない。その点『SUPER SOX』は、使用者が高機能を体感できる完成度の高さを持っていた。
加古さんによれば、『SUPER SOX』はリピーターが多く、リピート率が7割にもなるという。多くビジネスマンを虜にした、まさに「ほんまもん」の靴下。もうすぐやって来る「父の日」のギフトにも最適ではないだろうか。
■製品情報
http://www.okamotogroup.com/consumer/brand/supersox/
文/大沢裕司
ものづくりに関することを中心に、割と幅広く色々なことを取材するライター。主な取材テーマは商品開発、技術開発、生産、工場、など。当連載のネタ探しに日々奔走中。