【六月十四日】 あなたは堅固な心を得ようと努めねばならない
あなたは堅固な心を得ようと努めねばならない、すでに数千年前に書きしるされてあるように*1、たちまち傲慢になったり、たちまち元気を失ったりすることない、堅固な心を。
世間的な人たちがキリスト者について一番非難する点もそこにある。
すなわち、キリスト者たちが、しばしばごく小さな事でも、不幸に会うとひどく気落ちして涙っぽくなり、幸福になると大いに高慢になるのを見ているからだ。
「そんなことならおれたちだってやれる」と世間の人は言う、
「おまけにこちらにはもっとたくさん楽しみがあるのだ!」と。
*1:旧約聖書サムエル記にあるダビデのことをたぶん指すのであろう。(訳者注)
ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫
この訳者の注釈はたぶんまちがっています。
たちまち傲慢になったり、たちまち元気を失ったりする数千年前に書きしるされた例というのは、ダビデのことではなく、出エジプトのイスラエルの民のことでしょう。
ダビデ王は、前1003年に即位~前961年頃没でおよそ3000年前、
出エジプトは紀元前1450年(他説あり)でおよそ3500年前
とどちらも、ヒルティの暗に示した「数千年前」の範疇ですが、「たちまち傲慢になったり、たちまち元気を失ったり」という形容は、エジプト脱出前の奇跡からシナイ半島での舞い上がりっては、つぶやきなげくを繰り返したイスラエルの民にこそふさわしい。もちろん、ダビデにもそのような上がり下がりはあるわけだが、イスラエルの民ほどにアップダウンが集約されて表現されていない。
ですので、ここでヒルティの頭にあった聖書の史実は、出エジプト記のイスラエルの民の姿ですよ、草間先生。