伝わるのは1行。

 

 「1行力」は、「ひと言力」でもあるんです。

 一瞬で気持ちを惹きつけ、最短・最速でメッセージが伝わる。1行力を身につければ、ほかの人との差のつく伝え方ができます。さらに、コミュニケーションがスムーズになり、仕事がうまくいくようになるうえ、日常生活もさらに豊かなものになるでしょう。

 

 田口まこ(『伝わるのは1行。』)

 

 

 

 田口まこさんは長年広告業界でコピーライターをやってこられた人物だ。我々も知っているような「ポカリスエット」や「カロリーメイト」をはじめ、資生堂、カネボウ、ポーラなどの化粧品、カシオの女性腕時計、花王、ライオンのトイレタリーなど主に女性向け商品の広告を数多く手掛けてきている。要は「言葉のプロ」である。

 

 この著書を読むと、広告の前提である「どうでもいいと思っている人たちに振り向いてもらうためには、読んでもらうには」という1点についてを非常に分かりやすく解説している。そして、原則として「短く、わかりやすいこと」「難しい漢字や専門用語を使っていない」ことが重要だと説いている。だからこその「1行力」であり「ひと言力」なのである。

 

 筆者も仕事上でコピーライターの仕事も兼務していた時がある。あくまで兼務で、筆者の当時の仕事は「プランナー」と呼ばれる大もとの企画を考える仕事だったが、弱小企業だったため、コピーライターから広告制作、パンフレットやポスターの作成、PRビデオのプロデュースなど、なんでも来いという状態だった(笑)。よって、田口さんの著書を読むと「たしかに」などと今さら考えさせられる部分も多い。

 

 だが、広告というものには時代性がある。必ず時代の空気をまとわせないといけない。その意味で、田口さんは長年コピーライターをやってこられて、平成の末に出したこの著作で、まさに平成から令和につながる時代の女性に刺さる言葉の使い方を凝縮された感がある。もちろん、女性向けの商品を長年担当されてきたから仕方ない。

 

 本書の中で「シズル言葉」ということに焦点を当てたパートがある。「シズル言葉」とは、聞いただけで「おいしそう」と感じさせる、おいしそうものをイメージさせる言葉のことで、分厚いパンケーキを「ふわとろ」という言葉でブームにしてしまうような魔法の言葉のことである。まぁ日本語としてはもはや略称としか表現できないが、平成から現在に至るまで、とにかく「短縮」できる言葉や名前はずっとブームになってきた。逆にいえば略せない言葉はバズらないということだ。

 

 この「シズル言葉」を広告で使えと言ったのは、アメリカの経営アドバイザーのエルマー・ホイラーが1937年に書いた広告の古典的名著『ステーキを売るなシズルを売れ!』である。既に戦前に「シズル言葉」の重要性について説いていたのである。早い。この本には以下のように書いてある。

 

 「牛肉そのものではなく、ステーキをジュージュー焼く音こそが牛肉を売ってきた。どんな商品にもこのようなシズルが隠されている。だから、売りたいものがあれば、そのシズルを探し、言葉にしろ」

 

 とにかく「シズらせろ!」ということなのだが、ホイラーは本著で「手紙を書くな。電報を打て!」とも言っている。要は「手紙」=「長い文章」ではなく、「電報」=「10秒で伝わる言葉」にしろということで、右脳ですぐにイメージできるようなメッセージを伝えるための「シズル言葉」を使えということである。

 

 筆者の場合は様々な音楽アーティストと仕事をしてきた中で、よく売れていないアーティストに「キミの音楽性をひと言で表現すると何?」と尋ねることをしてきた。その意味では「ひと言力」である。但し、音楽は食べ物ではない。だから「シズル言葉」は使えない。というか、「シズル言葉」を使うと逆に音楽ファンからナメられてしまう。「安そう」とか「音楽は食べ物じゃない」とか言われてしまう。

 

 80年代末だったか。THE ALFEEが「音楽はスポーツだ」というコピーを使ったことがあったが、「音楽はスポーツじゃない!」と物凄い反感を買ってしまった。多分、大汗を書くような熱狂的なライブのイメージを伝えようとしたのだろうが、他のアーティストたちからも「違う」と逆の結果を生んでしまった。ここら辺が生活必需品ではない音楽の伝え方の難しさでもある。

 

 筆者もよく長文ブログを書いているが、別に女性ウケを狙っているわけでは無いので、全然シズらない言葉のオンパレードとなりがちだ(笑)。これがTwitterやらインスタなら「1行力」の世界なのだが、ブログで大層なタイトルを使うと、逆にタイトル負けをしてしまう人が多い。そして、「で、何がいいたいの?」という文章も多い。「何を書こうと人の勝手でしょ」なので別に構わないのだが。

 

 但し、素晴らしいタイトルをつける方もいる。「読んでみたい」と思わせるような「シズル言葉」である。そして、中身を読んでさらに「素晴らしい」と思わせたら「勝ち」だ。その辺のバランスを考えつつ、ブログを書いてみよう。