①-2頑張れモブリット!ハンジを救うのだ♡


「興味」-January-


初日はこのホテルの客室タイプや付属アメニティ、客室rate、館内施設等を覚える事に集中した。幸いな事に予約システムは前職場と同じシステムを使っていたので、こちらの操作は覚える必要はなさそうだ。



二日目から私は持参した折りたたみ自転車で通勤する。ナイルマネージャーの家だと落ち着かないので早くホテルに着き社員休憩室に向かった。


ここのホテルの休憩室はパソコンが何台か置いてあり、カーテンで仕切りもされているのでそこで出勤時間まで時間を潰そうと思っていた。

休憩室にはビーチチェアも何台か置いてあり、リクライニングすれば少し仮眠をとれるようになっていた。


そのビーチチェアにいびきをかいて寝ている女性がいる……。ハンジさんだ。

私より二つ年上らしいが、なんだか疲れてるおばさんって感じだった。


この人は昨日も勤務中寝ていたが、家に帰らないのだろうか?!私は起こすのも悪いので静かに横を通り過ぎ、奥にあるパソコンの前に座りカーテンを閉めた。


少ししたら男性の声が聞こえた。

「おい!ハンジ。時間だ。朝食を持ってきたぞ」


「ん〜。もう朝〜?朝食いらないから、もうちょっと寝かせて〜」

ハンジさんのだるそうな声も聞こえる。


「ダメだ。お前にこれを食べさせるために俺は早く出勤したんだ。ほらむいてやるから口を開けろ!」


カーテンの隙間から覗いて見たら、金髪のハンサムな男性がバナナをむいて、ハンジさんの口に差し出していた。


バナナって猿かよ?!

しかも朝食それだけ?!

私は朝食をきちんと食べる派なのでバナナ一本とかは考えられない。


「んー」

ハンジさんはバナナを食べている。


「エルドー、明日も同じ時間に頼むよー」

甘えた声で頼むハンジさん。


「はぁ?!俺、明日は休みなんだけど……。

まあまた倒れても困るからなぁ。エルヴィンが戻るまでだぞ!」

エルドと呼ばれる男性は溜め息をつきながら承諾した。


「大好きー!エルド。いつもありがとう」


「ほら、起きて。シャワー浴びてこい」

男性はハンジさんの手を引っ張って起こし、二人は休憩室を出て行った。



へええええ!

あのハンジさんにあんなハンサムな恋人が?!


男性の制服はフロントのものではなく黒服に蝶ネクタイだった。

レストランか宴会サービスの社員だろう。

しかもハンジさんより下手したら自分より若そうな男性だった。


ハンジさんも隅におけないなぁ……。

というかあの男性も物好きだなぁ。

モテそうなのにあえてハンジさんを選ぶんだから。


私は感心しながら職場に向かった。

少ししたら、濡れた髪をそのまま結ってきたようなハンジさんが現れて

「おはよう!モブリット」

と声をかけられる。


先ほどの男性と話してた甘え声とはまるで違うハキハキとした口調だった。

女性って本当変わるなぁ……これまた感心しながら業務につくのだった。



次の日、早朝の休憩室。

昨日と同じような光景が繰り広げられていた。

昨日と違うのはエルドが私服だという事と、バナナがヨーグルトに変わってる事くらいか?!


ほとんど覚醒していないハンジさんに、エルドはスプーンを口に運んでヨーグルトを食べさせている。


子供か?!

ナイルマネージャーの長男ドナウ君を思い出す。たった数日で懐かれてしまい、昨晩もヨーグルトを私が食べさせたのだ。まあ、そういう世話は嫌いじゃないので、もう開き直って楽しんでいるが……。



「明日も同じ時間?」

エルドがハンジさんに確認していた。


「ああ、明日は大丈夫。エルヴィン明日から出勤するみたい」

ハンジさんの返答が聞こえた。



はあああ?!

エルヴィンマネージャーって二日前まで入院していた人だよね?!復活早すぎるでしょ?!

自分、呼び出された意味あったのか?!



「明日は俺、遅番だから本当に来ないよ? 」

エルドは今一度確認する。


「うーん……。起きれるか自信ないからスマホ鳴らしてよ」


「いいけど、ちゃんと出てくれよ」


そんなやり取りをしてまた二人で休憩室を出て行った。



まあ、何はともあれエルヴィンマネージャーの復活がこんなに早いなら私も早々に用済みかな?!来月には家に戻れるかもしれない……

そんな事を考えながら職場に向かった。



次の日、早朝の休憩室。

ハンジさんのスマホが鳴り続ける。多分、二分くらい鳴ってる。やっと出てくれた。


「んー、ありがと。んー、寝ないよー。うん、大丈夫。うん、なんか食べるよー。うん、またねー」

そう言って速攻寝た、もういびきかいてる……。


私は見かねてハンジさんを起こす事にした。


「ハンジさん!ハンジさん!」

全く起きる気配がない。肩をゆすって耳元で大声を出す。


「ハンジさん、起きて!」


「うん!起きてるよ!エルド!!」

ハンジさんは寝ぼけながら、目を覚ました。



「あれ?モブリット?!おはよー」

ハンジさんは無邪気な笑顔だった。


「起こしてくれて助かったよ。今後もこの時間、私がここで寝てたら起こしてくれる?」

などと頼まれてしまった。


「あの……家に帰らないのですか?」

私は疑問に思ってた事を聞く。


「ああ、今日帰るよ。エルヴィン来てくれるみたいだし」

大きくあくびをしながら答えるハンジさん。


「まさか、エルヴィンマネージャーが入院してから帰ってないのですか?」


「うん、そうだね。何日帰ってないかな?!忘れちゃった! 」

また無邪気な笑顔。


イギリス人は仕事とプライベートをきっちり分ける人が大多数なので、ハンジさんのようにプライベート削ってまで会社に泊まり込むイギリス人は珍しい。


私はこの珍しいイギリス人に大変興味を持ってしまった。


そう、最初は一人の人間として……。

当然、女性なんて意識は全くしていなかった。