①-1頑張れモブリット!ハンジを救うのだ♡
「興味」-January-
「今すぐ来い!家と飯は用意するから」
昔の上司ナイルマネージャーから突然連絡があったと思ったら、いきなり無理難題を押し付けられた。
今すぐって…。
ここからナイルマネージャーの家までは電車で二時間はかかる。
しかもそのナイルマネージャーと昔一緒に働いていたのは、たった半年ほどだった。
なのに、私は荷造りして次の日にはナイルマネージャーが住んでるビーチタウンに向かっているのだ。
私はモブリット・バーナー、二十五歳のイギリス人。自分で言うのもなんだが大変真面目な男だ。まあ、つまらない男ともいう。
人から命令されて動くのは苦ではない。だが人の上に立つ人間ではない。人を先導したり、自分で戦略を考えて責任を負ったりする事は苦手なのだ。
自分は誰かの補佐をしながら生きていくのが向いているのだと思っている。
ナイルマネージャーのように有無を言わさず命令されても、行動可能であれば動いてしまうのが自分なのだ。
自分は先月、仕事を辞めたばかり。ちょうど動けるタイミングだった。…といってもやりたい事があり辞めたので長期でビーチタウンにいるわけにはいかない。
それでもいいから来てくれ!との事だった。
まあ、まずは命令に従うとしよう。
しかし、私は到着早々後悔していた。
ナイルマネージャーの家は五歳、二歳、ゼロ歳の子供と育児に疲れているナイルの妻マリーがおり、とてもじゃないが自分の居場所はなかった。
「まあ、仕事は明日からしてもらう。今日はゆっくり休んでくれ」
ナイルマネージャーが到着早々言うが……
ゆっくりってどうやったらこの状況でゆっくりできるというのだ?!
赤ん坊の泣き声が響き、長男で五歳のドナウ君は遊んでくれとおもちゃを持って待機していた。
ああ、これは超短期でこの街を去らなければいけない!私がこのビーチタウンに来て一番初めに決意した事だった。
次の日、ナイルマネージャーと病院に行く。これから働くホテルのフロントマネージャーが入院しているらしい。
「フロントマネージャーをしているエルヴィン・スミスだ」
絵に描いたような金髪碧眼イケメン男性が頭を包帯で巻かれ右腕を三角巾に吊るされた状態のまま挨拶してくれた。
自分も自己紹介をする。Kenという見た目学生のような男性もいて紹介される。なんとエルヴィンマネージャーと一緒に住んでるフロント社員のようだ。
この街ではマネージャーと社員が一緒に住むのが流行っているのか?!
さて、次は早速職場だ。
フロント業務は四年経験があるが、ホテルによってシステムも環境もまるで違う。
私は緊張してフロントオフィスに入る。
インチャージ席(その時間の責任者が座る席)に顔を突っ伏して寝てる女性の姿が見えた。
「おい!ハンジ!おい!起きろ!!」
ナイルマネージャーが呆れながら、その女性の肩をゆすって起こす。
「んあ?!んん?」
完全に寝ていたようで、唇の横にはヨダレの跡……鼻水も垂れている。ボサボサの髪を一本に結い上げ、その頭上にかけていた眼鏡を慌てて目に合わせて、私たちの顔を見る。
「ああ、ナイル!!今何時よ? 」
彼女はまだ覚醒していないのかあくびをしながら聞いてきた。
「もう十時過ぎている。忙しいのは分かるが寝るなら仮眠室を使え!昨日話した今日から働くモブリットを連れてきた」
「ああ、助かるよ、本当に!私はここのアシマネでハンジ・ゾエ。マネージャーのエルヴィンが入院しちゃったから実質、現フロントのボスかな。よろしく、モブリット」
彼女は笑顔で手を差し出してきたが、目には目ヤニが付いており鼻水とヨダレの跡が残る顔に自分はだいぶ引いていた。
なんだこの汚い生き物は……。
本当に女性なのだろうか?!
「モブリット・バーナーと申します」
私は必要最低限の挨拶をして握手を交わした。
それが私とハンジさんの出会いだった。