イタリアトスカーナ州のフィレンツェは
メディチ家統治時代に
ルネサンス文化が誕生した街
2004年3月31日~4月9日
イタリア ローマ、フィレンツェ、トスカーナを
旅しました
15~18世紀フィレンツェを支配したイタリア貴族
メディチ家( Medici )は
(英語 medicine:薬 の語源)
13世紀頃からフィレンツェで薬屋で栄え
14世紀末にジョバンニ・メディチが銀行設立
財をなし 市政にも関与
芸術を保護するパトロンとしても活躍
メディチ家から二人のローマ教皇を出してます
その孫のロレンツォが当主の時代は
フィレンツェがルネサンス
(古代ギリシャ、ローマ文化の再生)
の中心地として栄えた時代
ロレンツォ・メディチは
20歳でメディチ家当主となり
芸術への高い審美眼と
圧倒的な経済力で芸術を保護し
「偉大なる豪華王」と呼ばれました
メディチ家の別荘では
学者や芸術家を集めて
文化サロン「プラトン・アカデミー」が
開催されてました
「現実の感覚的世界の背後(天上)に
真理の世界(イデア)が存在し
地上に存在するのはイデアの影絵」
に対し
新プラトン主義の世界観は
「完成された神的世界(マクロコスモス)と
その写しである人間の魂(ミクロコスモス)
は重層的に重なっていて
人間は内面に神を感知し得る存在」
というものでした
ウフィツィ美術館
7月9日 シネスイッチ銀座ほか 全国公開
ウフィツィ美術館とフィレンツェを
3D・4Kテクノロジー映像で旅する
ウフィツィ美術館(16世紀末竣工)には
(2014年より館内撮影可)
メディチ家の美術コレクションが収蔵され
展示物は3000点以上
初代トスカーナ大公コジモ1世
(ロレンツォ・メディチの傍系でひ孫)
治世下
ヴァザーリの設計で建設された
フィレンツェの行政機関の事務所で
ウフィツィ(Ufficio)は
英語でオフィス(offices)
アルノ川に面した川沿いの建物(写真右手)↓
コジモ一世の住まいピッティ宮殿 から
ヴェッキオ橋の2階を通り庁舎
(現・ウフィツィ美術館)に行く通路
ヴァザーリの回廊には
700点の絵画が展示されてます
(ウフィツィ美術館を設計したヴァザーリは
ミケランジェロの弟子で
16世紀半ば出版の芸術家多数の伝記の著
「芸術家列伝」は
イタリア・ルネサンスの基本資料)
現在、
美術館コレクションを周辺地域に分散展示する
「散在する美術館」計画があるとのこと
ウフィツィ美術館に入ると
「ヴィーナスの誕生」と「プリマヴェーラ」の
エネルギーに圧倒されます
2画ともサンドロ・ボッティチェッリ作
縦約2m、横約3mの大作
教科書や画集で見た馴染みのある絵には
人物と等身大の「神」の姿が描かれていて
心の中心にドクドクと迫ってきます
ボッティチェリ(1445~1510年)は
生粋のフィレンツェ人
生涯のほとんどをフィレンツェで過ごしました
ボッティチェリと
メディチ家当主ロレンツォ(1449~1492年)は
歳が近く友人同士のように仲良しで
メディチ家邸宅に飾る絵をたくさん描きました
キリスト教では
アダムとエヴァしか認められてなかったヌード画も
古代神話の女神たちのヌード絵として飾られ
「プラトン・アカデミー」にも参加してました
ヴィーナスの誕生 The Birth of Venus
製作年:1485年 / 寸法:175x278cm
所蔵:フィレンツェ ウフィツィ美術館
ウェヌス(古典ラテン語: Venus)は
ローマ神話の愛と美の女神
英語読みは「ヴィーナス」です
古代ローマ神話のウェヌス(Venus)は
菜園の植物の生育を司る
春の女神でしたが
その後 ギリシア神話の
アフロディーテ(Aphrodite)と
同一視される存在に
古代ローマ時代は多神教でしたが
4世紀にローマ皇帝により
キリスト教が公認され一神教の文化に
14世紀、フィレンツェを中心に
古代ギリシア・ローマ文化を再生する運動
ルネサンスが始まりました
キリスト教文化では
絵画や彫刻は
教会建築の付属的美術でしたが
ルネサンス時代は
それぞれ独立した分野として発展
ヴィーナスはキリスト教からは異教の神ですが
写実的人間描写の技法で描かれ
ヴィーナスは神の姿というより
人間的な女性美として描かれてるようですね
ギリシャ神話では
原初の神カオス(無限)から
ガイア(地母神)が生まれ
ウラノス(天空神)を生む
ガイアとウラノスは
エロス(恋愛神)の働きで
神々を生み出しますが
ガイアが恐ろしい怪物を生み出すと
ウラノスは恐れをなして
怪物たちを地獄に閉じ込めてしまう
(諸説あり)
ガイアは怒り
子のクロノス(農耕神・時の神)が
大鎌で父ウラノスの男性器を切り取り
海に投げ入れてしまうんですね
海に泡が立ち
その泡からアフロディーテ
(ヴィーナス:愛と美と豊穣の女神)
が生まれます
ヴィーナスは天空を父に海を母
に
誕生したんですね
古代ギリシャ語で「泡」は「アプロス」
アフロディーテは
古代ギリシア語で「アプロディーテー」
海の泡から生まれたアフロディーテは
帆立貝の貝殻に乗り
西風の神ゼフュロスと花の女神フローラ
に導かれ
エーゲ海のキプロス島に上陸
(トルコの真下の位置)
季節の神ホーラーが
ヴィーナスに差し出しているマントには
デイジー(ヒナギク)の刺繍
愛のシンボルであるバラの花が舞います
イタリアの国花
太陽を思わせる花型
陽の光を浴びると花が咲き
花のマントをまとって
オリンポスの神々の宮殿に行きました
アフロディーテは火の神を夫としますが
軍神アレース(マルス)をはじめ
(子はキューピッドと言われる
)
人間であるトロイアの武将アンキセス
若いアドニスらとも愛しあったとか
ヴィーナスと武将アンキセスとの子が
ローマ人の祖先と言われる
アイネイアースで
イタリアにたどり着き、建国
その後時は流れ
オオカミに育てられた
双子のロムルスとレムスは
対立し、B.C.753年
ロムルスによりローマは建国されました
アイネイアースの母
ヴィーナスはローマの祖先なんですね
ヴィーナスは愛と美と豊穣の女神
恋愛(愛と美)が生物誕生(豊穣)の源
ということですね
新プラトン主義の哲学者らは
ヴィーナスを
天界と俗界両方における
愛の絶対者
古代の聖母マリア
にあたると考えていたようです
「ヴィーナスの誕生」は
イタリア・ルネッサンスのシンボルでもあり
「古代ギリシア・ローマの再生」の賛歌する
絵画ともいえますね
プリマヴェーラ primavera (春)
製作年:1477、78年 or 1482年 / 寸法:203x314cm
所蔵:フィレンツェ ウフィツィ美術館
プリマベラはイタリア語で「春」の意味
ラテン語 prima vera で
prime (第1の、はじめの) + vernal (春の)
フィレンツェ(イタリア語:Firenze)は
花の女神フローラの町 フローレンティアが語源
英語由来ではフローレンス
画面の右手を見ると
春をもたらす西風の神ゼフュロス
に触れられて唇から花を出すクロリスは
ギリシャ神話で
花々を生む大地の妖精
(花の女神フローラとの説もあり)
春と花の女神フローラ
(プリマヴェーラ:春の女神との説もあり)
に変身し
花々を撒き散らします
季節の春の訪れですね
フローラの花園には
死後、
花に姿を変えた者たちが住んでいたそう
「プリマヴェーラ」には
500種類の植物と190種類の花々が
実物大で描かれ
少なくとも130種類の花は
名前がわかると言われているんですね
ヴィーナスの頭上で
エロス(キューピット)が
輪舞する三美神に矢を射っています
中「貞節」
右「美」の女神 (一説)
左「愛欲」 と 中「貞節」は手をつなぎ
左「愛欲」 に 右「美」は 手を合わせてます
左側の神はギリシャ神話のヘルメス
天界と地上、冥界との間を行き来する伝令神
ローマ神話ではマーキュリー
商業の守護神
羽のある2匹の蛇が絡みついた
「カドケウスの杖」を持っています
眠っている人を目覚めさせ
目覚めている人を眠りにいざない
死にゆく人は穏やかに
死せる人は生き返る
魔法の杖です
一般的に
プリマヴェーラは春を称えている
と解釈されてますが
死後の世界を描いているのかもしれません
プリマヴェーラが描かれたのは
1477、78年 あるいは、
1982年頃と推定されるのですが
1478年4月26日
花の聖母マリア大聖堂 復活祭のミサの最中
(サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂)
メディチ家兄弟が パッツィ家に襲撃され
弟ジュリアーノが刺殺されたのです(25歳)
(兄ロレンツォ・メディチは負傷)
ジュリアーノの愛人シモネッタ(既婚)が
そのちょうど2年前の
1476年4月26日
肺結核で亡くなってるんですね(23歳)
(二人が出会って1年後…)
同じ日です
シモネッタは「ヴィーナスの誕生」
(シモネッタの死の9年後制作)
のモデルと言われています
シモネッタは多くの画家の
モデルになりましたが
ボッティチェリもシモネッタの肖像画を
3枚も描いているんですね
シモネッタ・ヴェスプッチの肖像
(「ヴィーナスの誕生」と同じ1485年頃制作)
一般的に「プリマヴェーラ」は
メディチ家の又従兄の
結婚式を祝う絵だと言われてますが
一説ではジュリアーノの兄のロレンツォ・メディチが
二人の死を悼んで
描かせた絵とも言われてるんですね
春は実は 死(冬)の再生
季節は死と生の循環、巡り
西風ゼフュロスは死者のように青白い顔で
新しい季節への変身を導いてます
花々は人間の魂の生まれ変わりでもあり
季節の巡りであり
誕生と死の巡りでもあり
新プラトン主義的解釈では
神と魂の巡りともいえるでしょうか
春と生命をもたらす西風の神ゼフュロスが
「プリマヴェーラ」では 春の季節への変身を
「ヴィーナスの誕生」では海からの上陸へ導いてますね