
三月初旬、ラオス南部を訪ねた。今回で二十七回目となるメコン。そこは、作家の椎名誠さんが著書の中で「メコンの折れ曲がったところ」と書いた場所だった。
メコン。タイ語でメは川を、コンは大きなといった意味を持つ、東南アジア六カ国を流れ全長は四千百二十三㌔。世界では十二番目の長さを誇る。
南米のアマゾン河は淡水魚の宝庫として知られ、およそ三千種の魚類が棲むという。メコンの魚類はおよそ千三百種。アマゾン河の半分に満たないのだが、アマゾン河に比べてメコンの流域面積は九分の一、年間の平均流量ではわずか二百分の一ということを考えると、メコンは世界でもずば抜けて、魚の種類の多い川ということができるだろう。
そして、メコンの流域には数千万人が、朝な夕な、日々の糧を川から得て暮らしを営んでいる。まさしくメコンは、人々の生活とともにある母なる川だ。
「折れ曲がったところ」は、露出した岩盤が大小の島となり、大きな島々には人が住み、村落がある。一帯は多数の島があることからシーパンドーン(四千の島)と呼ばれ、島によって分かれた流れは、それぞれが大小幾筋もの滝となっている。その一つ、パペンの滝は東洋のナイアガラと呼ばれる、ラオスを代表する観光名所だ。
今年から、その滝の下流に、陸から島に渡る橋の建設が始まっているという。今回のメコン行きの目的は、橋の工事がどの程度進んでいるかを確認することだった。
ホテルのある島から船をチャーターしてメコンを下り、滝の下流に向かう。メコンは乾季には流量が少なくなり、水位が十㍍以上も低くなり工事が可能となる。次の雨季が始まる七月までに、橋が完成するかどうかが気がかりだった。もし、橋が完成するとダムの建設工事が始まるのだった。
浅瀬を避けながら遡行すると、建設中の橋が見えてきた。
写真:ラオスを代表する観光名所であるパペンの滝。ラオス南部、カンボジア国境近くのシーパンドーン(四千の島)と呼ばれる地域にある