流し網が漁場の端まできて、網をたぐる時が来た。

 それまでは、真っ暗な中で作業しているが、網を揚げるときは、ライトを点ける。
巨大なギンブナ、コウライニゴイなどが揚がってきたあと、水中にきらめく姿があった。

 サツキマスは、緑がかったウグイス色の光を反射する銀箔のフォルムをしている。
しかし、その姿はホンの一瞬しか見えない。
修さんが素早く、素手か、タモ網かですくい上げるからだ。

 サツキマスはたいていの場合、網に捕らわれているわけではなく、網に少し頭を突っ込んでじっとしている。
生きたまま、鱗の一枚もはがさずにつかまえる。
それが、長良のサツキマス漁師の真骨頂なのだった。
大切に取り揚げ、岸近くの生け簀に運ぶ、朝まで生かしておいて、
出荷する時に、さらりと絞める。

一網で2尾が獲れた。今年としては、大漁である。修さんが言った。

変わった人がのると、マスも驚くがね。

久しぶりにサツキマスが獲れた。でも、精進男はそのままだという。

 暗くて見えないとは思うのだけれど、サツキマスが獲れたとき、
ボクは多分複雑な表情をしている。
獲れた喜び、それは、漁師さんと共有する収穫の実感である。
でも、一方では、秋。婚姻色に染まった彼女たちの姿を見ることは無いという寂しさを、
どこかでボクは見せてしまっているのだと思う。

にいむら