漁師さんは兄弟で漁をしている。

普段の年は、昼間と出荷は兄の亮一さんの仕事、夜の部は弟の修さんが担当する。
その修さんがボクにつけたあだ名がある。

「精進男」(しょうじんおとこ)
である。精進料理のしょうじんだから、生臭くない。つまり、さかな臭くないということ。
ボクが船に同乗すると不思議とサツキマスが獲れないということで、付いたあだ名だ。

 実際は、そんなことはなくて、最盛期のころには、毎晩のように同乗してサツキマス漁を手伝っていた。
 でも、このところの不漁だったりしたとき、そんなときにも、ボクは漁に同行していたから、こんな名前をもらってしまった。
もとより、気のおけない冗談だから、いつでも気持ちよく乗せてくれるし、ボクも楽しみにしているのだが、今年はさすがに、遠慮していた。

 今年の漁をみていて、ひょっとして、修さんは漁を止める。といい出すのではという不安が漠然とあった。
 27日もサツキマスは全く捕まらなかった。

 げんを担いで、精進おとこがのりましょうか。

ボクは久しぶりに、二人に同乗して、出漁することにした。

日没を待って、網をいれる。
トロ流しという漁法は刺し網を川に張り渡して流れ下る漁法。
左岸から網をいれ、右岸に向かい、船をさす。

修さんが言った。
「かかったね。ピィンピーンいうとる」
ひさしぶりの笑顔だった。

にいむら