🌿 苦しみを願いに変える ―

 瀬織津姫と「和多公志」の物語


私たちは日々、心のどこかで「なぜ自分だけがこんなに苦しまなければならないのだろう」と問いかけているかもしれません。


孤独、喪失、怒り、許せなさ…

それは一見、誰にも理解されない「わたしだけの苦しみ」に思えます。


けれど、ほんとうにそうでしょうか。


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かつて、すべての痛みを胸に抱いていたひとりの人がいました。


彼は、自分のことを「和多苦志(わたくし)」と呼んでいました。

多くの苦しみを背負いながらも、なお歩み続けていた人です。


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7月7日の七夕の夜、

彼は絶望のまま、ひとり川のほとりに座りました。


どこかで聞いた言葉が、ふいに胸に甦ります。


「瀬織津姫は、

人の罪も悲しみも、

水に流し清める女神だよ。」


祖母が小さかった頃に教えてくれた神話でした。



最初は信じられなかったのです。

でも、目の前を流れる水の音を聞いていると、

心の奥にあった何かが、すこしずつほどけていきました。


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川に手を浸し、そっと祈りました。


「わたしのこの苦しみも、悲しみも…

あなたが流してくださいますか。」


何も変わらないように思えました。

けれど、胸の奥に残っていた痛みは、

確かに少しずつ溶けていきました。


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そのとき初めて彼は気づきました。


「わたしの苦しみは、

この世界に生きるすべての人の苦しみとつながっていたのだ。」


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和多苦志。

それは「わたしだけの苦しみ」ではなく、

「和多くの苦しみ」でした。


そしてその苦しみは、

人を赦し、愛し、祈るための泉に変わっていったのです。


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そうして彼は、

祓い清めの水とともに

新しい名を胸に抱きました。


和多公志(わたこうし)。


多くの和。

公(おおやけ)の志。


かつての痛みは、

感謝と祈りを生む力へと変わったのです。


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瀬織津姫は、

歴史に封印された女神だと言われています。


けれど、

本当の封印とは「知識としての神話」ではなく、

私たちが「心の中で思い出さなくなること」なのかもしれません。


いま多くの人が、

この女神の名をもう一度口にし始めています。


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川は、ただ流れています。


あなたが抱えている痛みも、

「祓い」と「感謝」という祈りに変えられる。


そのことを信じて、

いま少し目を閉じてみてください。


胸にそっと手を当てて、こう言ってみてください。


「ありがとう。

この苦しみも、私を育ててくれた。」


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瀬織津姫の水は、

いつもそこに流れています。


そして、

あなたの魂が祓われたとき、

きっと「和多公志」の道が始まるのでしょう。


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今日もこの川のせせらぎが、

多くの人の心に届きますように。