またまたすごい映画に出会ってしまいました。

 

 昨年は関東大震災発災100周年でした。森達也監督『福田村事件』が公開されたのは記憶に新しいですが、もうひとつ関係の深い映画が公開されました、

 

『風よ あらしよ 劇場版』(演出:柳川強 2023年)

 

 

 


 1923年9月1日、関東大震災という未曾有の災害が起こりました。震災後の混乱のさなか、ひとりの女性が憲兵に虐殺されるという痛ましい事件が発生。殺されたのは女性解放先駆者の伊藤野枝でした。九州の貧しい家庭で育った野枝は、平塚らいてうの「元始、女性は太陽であった」という言葉にいいしれぬ感動を覚えました。親が勝手に決めた結婚を破棄して上京します。因習からの開放と、自由を望んだ彼女は「青鞜社」に参加し、らいてふとともに結婚制度や社会通念に疑問を呈していきます。そしてダダイストの辻潤と結ばれ、積極的な執筆活動を繰り広げると。やがてアナキストの大杉栄と運命的な出会いを果たします。

 

 主人公伊藤野枝を演じたのは大河ドラマでも主演を務める吉高由里子。青踏の平塚らいてうを松下奈緒、彼女の最初の夫の辻潤を稲垣吾郎、2番目の夫で無政府主義者・大杉栄を永山瑛太が演じました。みんな熱い演技で、吉高由里子の熱演はもちろん、永山瑛太も大杉栄が乗り移ったような迫力でした。

 

 最近見た中でも、熱い映画の筆頭でした。明治期の薩長藩閥政権の横暴と、昭和期の軍部の暴力支配の間の大正期。大正デモクラシーと言われ普選運動や労働運動は盛んで少し明かりが見えた時代。政府の厳しい取り締まりがあっても、自由への抑えきれない渇望は人々を突き動かします。資本主義社会の進展の中で都市にも大量の貧民が発生し、少しでも暮らしやすい社会にするべく、あまたの社会運動が発生した時代でした。映画の中でも足尾銅山鉱毒事件が登場します。財閥企業が経営する銅山から多量の鉱毒が流出し、周囲の広範な土地が深刻な汚染にさらされた事件でした。

 

 映画では野枝やその周辺の熱い人々が動きだけではなく、社会情勢も的確に描いています。時代が大きく動くなかで、人間としてどう生きるか考えさせる映画でした。