貧困と児童虐待の連鎖という重い内容ながら笑いと温かい涙で上映が続けられる「ひとくず」。「ひとくず」の上西雄大監督の新作である「西成ゴローの四億円」の公開に続き、後編の「死闘編」が公開になりました。
今回は大阪市西成区が中心となっています。主人公ゴロー (上西雄大) は日雇い仕事で細々と暮らす労働者です。どういうわけか過去の記憶は失ってる部分がありますが、殺人事件の実行犯として刑務所に服役したという過去があります。そんな彼は実は政府謀報機関の工作員の経歴がありましたが、今は自分一人が生きて行くのさえ大変な有様です。そんな中、別れた妻(山崎真実)との間の娘が難病で余命2年。治療でアメリカで移植を受けるのに、4億円かかるという衝撃的な事実が発覚します。徐々に過去の記憶を取り戻しはじめたゴローは娘の命を助けるために、特務機関からの危ない仕事を引き受けながら奔走します。
そして「死闘編」でも、政府の工作機関、教会を背景にした謎の秘密結社、ヤクザ組織などとからみながら突き進み、やがて過去の殺人事件の真相も明らかになります。結局4億円は、娘の命はどうなるのでしょうか。息もつかせぬ展開がつづきます。
まずはアクションシーンだけでもけっこう楽しめる映画です。次から次に現れる個性的な敵をゴローが面白いように倒していくのは、まるでブルースリ(李小龍)みたいです。敵役で登場するのは、木下ほうか、加藤雅也、波岡一喜、など個性的な面々ばかり。これとどう闘うのかも見物のひとつです。
でもアクションシーンだけが全ての映画ではありません。アクションシーンだけが売りなら「ひとくず」と全く違う映画ということになりますが、一番感銘を受けるのは「ひとくず」にも通じる家族への愛です。ゴローの家族への愛。これがあってこそゴローはがむしゃらに突き進むのであり、最後の親子3人の場面は涙なしには見られません。またコワイながらどこか愛嬌のあるヤミ金姉妹の松子と梅子(徳竹未夏・古川藍)の過去も明らかになります。ひとり我が道を行く彼女たちにもつらい過去があり、人間関係によって彼女たちも救われていたのです。具体的にどういう人間関係かは映画でご確認ください。人間ひとりだけでは生きていけませんものね。
そして超格差社会となった日本で、底辺へ追いやられた人々へを見つめる優しいまなざしも忘れられません。西成にはいろいろな事情を抱えてやってくる人が集まっていますが、その人々に対するまなざしが優しいです。一人一人なぐさめるような描き方は素晴らしい。特にカネやん(笹野高史)との交流には胸が熱くなります。上西監督の人間愛にあふれるところですね。
いろいろな意味で見応えのある映画です。十三の第七芸術劇場では、昨日(2月5日)から「死闘編」の上映がはじまりました。上映が終了した後には恒例の舞台挨拶があり、上西雄大監督、徳竹未夏、古川藍の3氏の舞台挨拶がありました。客席には主題をうたった西成の神様や、映画で脇を固めた方々も来ておられ、最後まで和気藹々とした雰囲気でした。これもなんどか見たくなる映画ですね。
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