フランス議会がペットのネット販売を原則禁止する法律を可決ーー
先月末に欧州で報じられたフランスの動きが、日本のSNSで多く拡散された。
2021年1月29日、フランスの衆議院に相当する国民議会で採決された、新しい動物虐待対策法案のことだ。同法案内にある、「3年後に犬や猫のペットショップでの店頭販売が禁止になる」の項目にも、注目が集まった。
2020年のフランスでは、コロナ禍ロックダウンの余波でペットを購入する人が増えた。対策を取らないと「飼育放棄」が悪化するのでは、と案じられている矢先の国会可決だった。
法案はネット販売規制やペットショップでの店頭発売禁止だけではなく、動物への加害行動およびその様子を録画・配信することに対する罰則強化など、他の対策も包括している。が、今回の法改正の中核を成すのは、放棄予防のための販売網の限定化だった。
なぜペット放棄の予防が、ネット販売の禁止に繋がるのか? その因果関係は保護団体や獣医学の見解から導かれ、販売網・購入者・保護施設と多角的な対策が検討され、法案にまとまっている。以下、代表的な項目をピックアップして見ていこう。
毎年10万匹近い動物が棄てられるペット愛好国フランスの課題
フランスは全国の約半分の世帯が何らかのペットを飼っている国で、その数は約8000万匹と、欧州でもトップクラスのペット愛好国だ。
日刊紙ル・フィガロが今年1月にまとめた特集によると、最も多いのは魚類の3200万匹で、その後を猫(1400万匹)、鶏や兎などの家禽類(1200万匹)、犬(700万匹)が続く。
しかし同時に飼育放棄の数も多く、大手動物保護団体SPAの発表によると、毎年10万匹近い動物たちが飼い主に棄てられている。うち約6万件は夏の長期バカンス期間に発生し、旅行に連れて行けないから・預け先が見つからないからという身勝手な理由によるものだ。
ネットで売買される動物たち 「衝動的な入手」をいかに防ぐか
「動物は命ある存在だ。家具や電化製品のように扱うことはできない」
今回の法案でスローガン的に掲げられた言説である。これとセットで強調されているのが、衝動的な購買欲が及ぼす影響の大きさだ。
家具や電化製品はクーリングオフや転売・譲渡が容易だが、命あるペットはそうはいかない。またペットには生い立ちにより形成された性格や、飼い主との相性など、入手前には分からない要因も大きい。その観点から法案では、「いかに衝動的な入手を防止するか」が問われた。
自宅で手軽に行えるネット販売は、この「衝動的な入手」の最たるケースと認められたのだ。
背景には、コロナ禍で急成長した個人売買プラットフォームの存在がある。特に例出されるのが「Leboncoin」という、日本のメルカリに相当するサイトで、全商品カテゴリーの取引投稿総数はこの1年で2000万件から4000万件に増えた。
Leboncoinはペットの売買に際し、ペットID登録番号、ワクチン接種の有無などを明記するよう求めているが、それが真実であるかどうかを検証するのは至難だ。プロのブリーダーと偽る売り手も後を絶たない。
とはいえ今回の法改正では、ネット経由の販売がすべて禁止されるわけではない。保護施設による譲渡、および国の定める基準を満たしたブリーダーや専門団体の専用サイト販売は、引き続きネット経由で行える。一部を例外的に許可し、「それ以外はNG」とする、原則的な措置だ。
ネット販売が許可される専用サイトの運営団体は、飼育環境を監督する獣医師がいること、その獣医師と施設責任者が衛生飼育規則を設けることなどが定められ、年に2回、衛生監査を受ける。
犬・猫の店頭販売が2024年から禁止に
販売網の規制は、店頭にも及ぶ。放棄されるペットの中でも最も割合の多い猫と犬に関しては、放棄の原因まで遡っての検証が行われ、2024年1月からと準備期間が設けられつつ「ペットショップでの店頭販売禁止」が決められた。
主な禁止の理由は2点とされている。
1点目は、ショーウィンドウで愛らしい子犬・子猫を見せることで、入手衝動を喚起し、熟慮しないまま購入するケースが保護団体から指摘されたこと。
もう1点はそのマーケティング手法のため、しつけや健全な社会性獲得のために重要な「生後4週間以降」にプロのブリーダーのケアを受けられず、狭い陳列ケージに入れられ、不特定多数の目に晒されることだ。
このことで恐怖心を抱いたり攻撃性の強い反応・行動を身につけたりしてしまう犬や猫は少なくない。それが原因で飼い主の手に余り、放棄に繋がると、保護団体はかねて警鐘を鳴らしてきた。
一方、ウサギやハムスター、魚類などの品種はペットショップでの販売が継続される。