鋼鉄の壁
なんとかして彼女に会うことが出来た。寒い街を歩きながら、僕と彼女の間には透明だけど決して破れないカーテンのようなものがあった。
「あなたと私が付き合うということは、何があってもないから」
と再確認される。僕もそれはわかっている。ただ言うことを聞かない体がゾンビのように動いている。どこかに杭で縫いとめるしかなのいのかもしれない。
静かに心臓が凍っていって、冬と同化した。
僕は鋼鉄の壁で囲まれた場所に自分を安置したいと思った。世の中のどんな色も届かないような。
僕の生きる意味は空気に昇華され、何か残骸のようなものだけが歩いている。ここに残されている考えるという物体をどうすれば良いのだろう。彼女を失った今、この世界に行く場所はない。
走りこんでくる電車とホームのすき間がとても優しく見えた。ミキサーのように僕の体を粉々にしてくれるだろうか。形も残らないくらいすりつぶされたいというのが僕のわずかに残された願望だ。
「あなたと私が付き合うということは、何があってもないから」
と再確認される。僕もそれはわかっている。ただ言うことを聞かない体がゾンビのように動いている。どこかに杭で縫いとめるしかなのいのかもしれない。
静かに心臓が凍っていって、冬と同化した。
僕は鋼鉄の壁で囲まれた場所に自分を安置したいと思った。世の中のどんな色も届かないような。
僕の生きる意味は空気に昇華され、何か残骸のようなものだけが歩いている。ここに残されている考えるという物体をどうすれば良いのだろう。彼女を失った今、この世界に行く場所はない。
走りこんでくる電車とホームのすき間がとても優しく見えた。ミキサーのように僕の体を粉々にしてくれるだろうか。形も残らないくらいすりつぶされたいというのが僕のわずかに残された願望だ。
再びメールする
懲りずにまた彼女にメールを送ってみた。ストーカーと思われない風に
3日我慢した。3日接触を断つだけで我慢できなくなる。コンタクトしても
しなくても辛い。なぜ僕はこんな迷宮のようなところにはまり込んで
いるのだろう。
メールがすぐ帰って来ないといいのに、と思う。メルアドを変更されて
「届きませんでした」となるのは辛い。
メールが長く帰って来ないと辛くなる。無視されて捨てられてしまうと
哀しい。
こんな勝ち目のない戦いにいつまでもしがみついている僕は、情けない
と思う。
でも離れられない。
3日我慢した。3日接触を断つだけで我慢できなくなる。コンタクトしても
しなくても辛い。なぜ僕はこんな迷宮のようなところにはまり込んで
いるのだろう。
メールがすぐ帰って来ないといいのに、と思う。メルアドを変更されて
「届きませんでした」となるのは辛い。
メールが長く帰って来ないと辛くなる。無視されて捨てられてしまうと
哀しい。
こんな勝ち目のない戦いにいつまでもしがみついている僕は、情けない
と思う。
でも離れられない。
消去された記憶
いい天気の土曜、今頃彼女は僕の知らない男とデートしているだろう。
あの笑顔を僕以外に向けて。彼女はすぐに人を信じてしまう所がある
ので、簡単に身を任せてしまうかもしれない。
僕はキスもできなかったのに。
こんなに努力した僕は唇にも届かないが、後からやってきた僕の知ら
ない男は、彼女とキスをし、あまつさえ服を脱がせ抱き合うことにな
るかもしれない。それを思うと胸が痛んだ。その時、彼女の脳の中に
は僕の痕跡すらないだろう。そう、迷惑をかけるどころか気にもなら
ない存在だ。どうでもいい必要のない存在。それが僕だ。
僕は1人で部屋の中だ。彼女は楽しくデート。もう遠くなってしまっ
た。認めて泣くしかないのかもしれない。僕があれほど求めた美しい
体が、手に届かず軽い誰かのものになって行く。耐えられない。僕は
正気を保ったまま、延々と突き刺さる焼け火箸に悲鳴をあげつづける。
どこにも逃げ場がない。僕はこの世界に生み出された、悲しみと悼み
を味あうためだけの機械だ。
あの笑顔を僕以外に向けて。彼女はすぐに人を信じてしまう所がある
ので、簡単に身を任せてしまうかもしれない。
僕はキスもできなかったのに。
こんなに努力した僕は唇にも届かないが、後からやってきた僕の知ら
ない男は、彼女とキスをし、あまつさえ服を脱がせ抱き合うことにな
るかもしれない。それを思うと胸が痛んだ。その時、彼女の脳の中に
は僕の痕跡すらないだろう。そう、迷惑をかけるどころか気にもなら
ない存在だ。どうでもいい必要のない存在。それが僕だ。
僕は1人で部屋の中だ。彼女は楽しくデート。もう遠くなってしまっ
た。認めて泣くしかないのかもしれない。僕があれほど求めた美しい
体が、手に届かず軽い誰かのものになって行く。耐えられない。僕は
正気を保ったまま、延々と突き刺さる焼け火箸に悲鳴をあげつづける。
どこにも逃げ場がない。僕はこの世界に生み出された、悲しみと悼み
を味あうためだけの機械だ。
あきらめる
眠れなかった。真剣に死にたいという思いをじっくり考えてみた。
仕事も手につかず、ミスと不運が重なる。
死にたくなるような狼狽メールを送ってしまい、自己嫌悪に陥る。
もうキッパリあきらめたほうがいいのかもしれない。
金もなくなってきた。ふと出合ったいい人を傷つけてしまった。
死ぬほどついてなくて辛いのに今日は飲み会に出かけなきゃならない。
僕を励ましてくれるはずの飲み会だったのに遅すぎる。
全てが終わってから助けの手がやってくる。
行くも地獄。退くも地獄。本当に死にたい。
こういう腐った精神状態の時に、わずかな味方が声をかけてくる。
でも僕はつっけんどんで、きっと嫌われるだろう。
ますます孤独になる。ますます年を取る。ますます不幸が重くのしか
かる。
生きるということは不幸だ。辛いことの連続だ。誰も味方はいないし、
救われるなんてこともない。
ただただ、魂を震わせるような辛苦が続く。窓の外の幸福を眺めながら
僕は室内の地獄に苦しみつづける。ここにいる限り救いはない。
何万回もの努力は打ち破られ、報われず、徒労で、お人好しはあだと
成り濡れ衣を着せられ、貧乏くじが積み重なって行く。救いはない。
誰一人として暖かい言葉をかけてくれるものはない。こちらが暖かい
言葉をかけるとそれを利用されるだけでなめられ、感謝されることも
ない。
あきらめよう、全部。
仕事も手につかず、ミスと不運が重なる。
死にたくなるような狼狽メールを送ってしまい、自己嫌悪に陥る。
もうキッパリあきらめたほうがいいのかもしれない。
金もなくなってきた。ふと出合ったいい人を傷つけてしまった。
死ぬほどついてなくて辛いのに今日は飲み会に出かけなきゃならない。
僕を励ましてくれるはずの飲み会だったのに遅すぎる。
全てが終わってから助けの手がやってくる。
行くも地獄。退くも地獄。本当に死にたい。
こういう腐った精神状態の時に、わずかな味方が声をかけてくる。
でも僕はつっけんどんで、きっと嫌われるだろう。
ますます孤独になる。ますます年を取る。ますます不幸が重くのしか
かる。
生きるということは不幸だ。辛いことの連続だ。誰も味方はいないし、
救われるなんてこともない。
ただただ、魂を震わせるような辛苦が続く。窓の外の幸福を眺めながら
僕は室内の地獄に苦しみつづける。ここにいる限り救いはない。
何万回もの努力は打ち破られ、報われず、徒労で、お人好しはあだと
成り濡れ衣を着せられ、貧乏くじが積み重なって行く。救いはない。
誰一人として暖かい言葉をかけてくれるものはない。こちらが暖かい
言葉をかけるとそれを利用されるだけでなめられ、感謝されることも
ない。
あきらめよう、全部。
待ちかねたところにギロチン
彼女からメールが来た。
「クリスマスには予定が入ったので会えなくなりました」
1ヶ月も前から約束していたのに。
それは誰か他の人とデートするということだろうか。
怖くて聞けない。
「残念です。とても辛いです」
とだけ返した。理由を聞いて今死ぬか、死刑を長引かせるか。
でも思うそばから足元が崩れてきた。
約束されていた崩壊。
そうだよね。所詮俺だものね。
当たり前の結論、か。
もう少し、夢が長ければ良かったのに。
「クリスマスには予定が入ったので会えなくなりました」
1ヶ月も前から約束していたのに。
それは誰か他の人とデートするということだろうか。
怖くて聞けない。
「残念です。とても辛いです」
とだけ返した。理由を聞いて今死ぬか、死刑を長引かせるか。
でも思うそばから足元が崩れてきた。
約束されていた崩壊。
そうだよね。所詮俺だものね。
当たり前の結論、か。
もう少し、夢が長ければ良かったのに。
言葉
今日も彼女からメールはこなかった。
親の遺産で僕は1人で暮らしている。
僕と外界をつなぐのは彼女だけだ。彼女からの連絡が途絶えると
僕は世界に取り残される。
とりたててやることもなく時間が過ぎる。
僕は君のことを考える。もう何度も考えたが、飽きることはない。
彼女のことを思って自慰してみる。
想像の中では彼女は優しく、僕を愛している。
裸になった彼女に導かれ僕は小さくうめく。
ただ、終わった後、若干の哀しさに包まれる。
---ほんとうは彼女は僕など愛していない。
だから、夢の中で彼女が行った言葉「好きだ」とか「愛してる」だとか
そんな言葉が哀しい。言われるはずのない言葉。
現実は揺るぎなく横たわっており、想像すればするほど苦しくなる。
でも想像をやめられない。
彼女が僕に鉈を振り下ろすまで僕の苦しみは続く。
だが苦しみの中の少しずつの幸せだけを糧に僕は生きる。
親の遺産で僕は1人で暮らしている。
僕と外界をつなぐのは彼女だけだ。彼女からの連絡が途絶えると
僕は世界に取り残される。
とりたててやることもなく時間が過ぎる。
僕は君のことを考える。もう何度も考えたが、飽きることはない。
彼女のことを思って自慰してみる。
想像の中では彼女は優しく、僕を愛している。
裸になった彼女に導かれ僕は小さくうめく。
ただ、終わった後、若干の哀しさに包まれる。
---ほんとうは彼女は僕など愛していない。
だから、夢の中で彼女が行った言葉「好きだ」とか「愛してる」だとか
そんな言葉が哀しい。言われるはずのない言葉。
現実は揺るぎなく横たわっており、想像すればするほど苦しくなる。
でも想像をやめられない。
彼女が僕に鉈を振り下ろすまで僕の苦しみは続く。
だが苦しみの中の少しずつの幸せだけを糧に僕は生きる。
メルヘンメール
恋愛で負けてる時の心持ちは弱く、失わないことだけを考える。そして疾る自分の気持ち。彼女にメールを送ろう。深夜3時のメールを。
「君と仲良く歩きたいです」
「君とずっと一緒にいれたらいいなぁと思います」
そんな気持ちがそのまま文章に刻印される。想像する、彼女と歩くところを。幸せな気持ちが胸一杯に広がる。君といたいです。そんな祈りが胸から頭に突き抜けて、天井まで跳ね上がる。
でもそれはメルヘンメール。僕だけの世界。
そんなメールに対して彼女の返事はいつまでも来なかった。
女の子を口説くには二つのコツがある。
一つは「世界一の名探偵になること」。
一つは「世界一の禁欲者になること」。
女の子の気持ちのかすかな揺らぎや息遣いを耳を澄まして聞き取らなければならない。
それはわずかなシグナルで、注意深く見ていないと消えてしまう。
僕はメルヘンメールを書きながら思う。足元から押し出される気持ちを押さえつけながら。
ああ、彼女が僕であったらいいのに。彼女が僕であったら、毎日会って、思う存分一緒にいることができるのに。
でも彼女は僕ではない。僕の生死を握りながら、どこか違うところを向いている。
そんな彼女に僕は今日もメルヘンメールをうつ。
返事が1日遅れる。僕は途方にくれる。
返事が2日遅れる。僕は頭をかきむしる。
それは電話でもなく、手紙でもなく。メールは無言で僕を痛めつける。
返事が3日遅れる。僕はあきらめそうになる。
返事が4日遅れる。僕は涙を流す。
そして5日目、彼女から簡単なメールが返って来る。
「今度会いましょう」
と。僕の思いへの返事はない。でも僕は小躍りする。
そして僕は足がかりを得た勢いでまた長いメールを書く。
メルヘンメールを。
それは多分、僕のためのメルヘンメール。
僕は僕を叱咤する。
彼女のことを考えろ。彼女の気持ちを考えろと。
でもそれはわかっている。彼女は僕を必要としていない。
ただ惰性で僕と付き合っているだけだ。
僕はファンタジーの中の彼女と戯れる。
現実は長く続かない。
彼女がそれを断ち切るまでが僕の命。
明らかに判定負けなのに、KOを狙う力もないのに僕はリングにた立ちつづける。
僕はメルヘンメールを打ちつづける。
「君と仲良く歩きたいです」
「君とずっと一緒にいれたらいいなぁと思います」
そんな気持ちがそのまま文章に刻印される。想像する、彼女と歩くところを。幸せな気持ちが胸一杯に広がる。君といたいです。そんな祈りが胸から頭に突き抜けて、天井まで跳ね上がる。
でもそれはメルヘンメール。僕だけの世界。
そんなメールに対して彼女の返事はいつまでも来なかった。
女の子を口説くには二つのコツがある。
一つは「世界一の名探偵になること」。
一つは「世界一の禁欲者になること」。
女の子の気持ちのかすかな揺らぎや息遣いを耳を澄まして聞き取らなければならない。
それはわずかなシグナルで、注意深く見ていないと消えてしまう。
僕はメルヘンメールを書きながら思う。足元から押し出される気持ちを押さえつけながら。
ああ、彼女が僕であったらいいのに。彼女が僕であったら、毎日会って、思う存分一緒にいることができるのに。
でも彼女は僕ではない。僕の生死を握りながら、どこか違うところを向いている。
そんな彼女に僕は今日もメルヘンメールをうつ。
返事が1日遅れる。僕は途方にくれる。
返事が2日遅れる。僕は頭をかきむしる。
それは電話でもなく、手紙でもなく。メールは無言で僕を痛めつける。
返事が3日遅れる。僕はあきらめそうになる。
返事が4日遅れる。僕は涙を流す。
そして5日目、彼女から簡単なメールが返って来る。
「今度会いましょう」
と。僕の思いへの返事はない。でも僕は小躍りする。
そして僕は足がかりを得た勢いでまた長いメールを書く。
メルヘンメールを。
それは多分、僕のためのメルヘンメール。
僕は僕を叱咤する。
彼女のことを考えろ。彼女の気持ちを考えろと。
でもそれはわかっている。彼女は僕を必要としていない。
ただ惰性で僕と付き合っているだけだ。
僕はファンタジーの中の彼女と戯れる。
現実は長く続かない。
彼女がそれを断ち切るまでが僕の命。
明らかに判定負けなのに、KOを狙う力もないのに僕はリングにた立ちつづける。
僕はメルヘンメールを打ちつづける。
