アメリカの心理学者にアブラハム・マズローという人がいた。
彼は古典的な精神分析学派でもなく、行動主義心理学の派でもない、第三の勢力と呼ばれていた。
彼の唱えた主要な理論に「欲求階層説」がある。
個人的に彼の欲求階層説が画期的だったと思うのは、普通に考えると欲求というものはそれぞればらばらに秩序なく、食欲や睡眠に対する欲求、誰かに受け入れられたい欲求、承認・地位や名誉についての欲求、自分の可能性を実現したい欲求などが存在しているように思える。
そうなると、人は欲求を満たそうとする時に先に述べたような欲求を特に順序なく満たしていくと考えるのが普通になってくる。
しかし、マズローはこの「欲求」というものに階層、つまり順位があると主張した。
それによると、ピラミッドの底の部分、つまり低次から
- 生理的欲求
- 安全の欲求
- 所属と愛の欲求
- 承認の欲求
- 自己実現の欲求
となっている。(1が底辺で、5が最高次の欲求になる)
そして肝心なのは、この欲求には優先順位があり、低次の欲求が満たされた時はじめて、次のレベルの欲求に移行できると考えた点である。
この考えによると、人間の欲求はバラバラではなく、きちんとした階層を持っていることになり、一定の法則によって欲求が出現したり、満たされていくことになる。
ピラミッドの最上部にある「自己実現の欲求」というのが非常に面白いのだが、あえて今回は低次の欲求に注目したい。
マズローによると、1から4までの欲求は「欠乏欲求」と呼ばれ、1番の生理的欲求(食べ物や水、睡眠、呼吸、排泄など生体維持のために必要な欲求)を除いて、ほかの2、3、4の欲求が満たされないと強い不安であったり緊張感を感じてしまうとしている。
2、安全の欲求とは、良好な健康状態であったり安定した経済性を主に指す。
3、所属と愛の欲求は、安定的受容的な人間関係がある、他者に受け入れられているという感覚、自分には居場所があるという感覚(帰属感)を得ること。
4、承認の欲求とは、集団の中で、価値のある存在だと認められたいと思う欲求。
個人的にこの階層説に説得力があると思うのは、1,2,3の三つの階層が主に家庭という環境で満たされる極めてベーシックなプロセスを映している点である。
家庭は衣食住(1、2)があり、そこには家族間の人間関係によって情緒的な愛も交わされる空間でもある(3)。
それが満たされることによって、4(集団の中で役に立ちたいと思う欲求=就労や社会活動と考えて良いと思う)、5(自己実現への欲求)の段階に移っていく。
3(所属と愛の欲求)と4(集団内での承認の欲求)が隣接しているのも興味深く、外の人間関係で疲弊したら一段下の3に戻り家族の中の対人関係で傷を癒し、再び4に向かうという流れも容易に想像できる。
ただ、現代の家族機能は相当変化しており、中には機能不全家族と呼ばれる家族機能(例えば情緒安定機能や経済機能、福祉機能)が充分に働いていない、あるいは誤った方向に働いている家族も多く、これらの家庭で育った人たちが4の段階へ進もうとする時の困難さや不安感は、正直想像を絶すると思う。
欠乏欲求が満たされないまま、義務感や自責感から就労を急いでしまうケースも、相当多いように感じる。
そういう時にこそ、あえて立ちどまって、自分の欠乏欲求、安全や所属、愛の欲求は満たされているかチェックしてほしい。欠乏欲求が満たされなければ人は強い不安、張り詰めた緊張を感じてしまう。
それらの負の感情に耳を傾け、それらの感情がどんな事を訴えているのかを聞きとろうとすることも、重要なことに違いない。
参考図書
↓マズローの欲求についての考え方が述べられています。
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↓マズローの人間観が良くわかります。
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- ↓機能不全家族についてはこちらも
- 機能不全家族―「親」になりきれない親たち (講談社プラスアルファ文庫)/西尾 和美
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↓家族についてトータルに考える際に参考になるかもしれません
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以上、Champlainでした☆