昔むかし、ある所にとても大食らいな王様がいました。
朝から晩まで、ぱくぱくもぐもぐ。
「この国の美味い物は、全部ワシの所に持って来い!」
国は裕福で、食べ物はたくさんありました。
その中でもとりわけ美味しい物が、王様の所に毎日運ばれていきます。
広いテーブルに、たくさんのごちそう。
王様は毎日、そこで一人でご飯を食べていました。
「このメシはワシのものだ! 誰にも、一口だってあげないぞ!」
しかし、豪勢な日々は長く続きはしませんでした。
干ばつや台風で、国の食べ物が少なくなってしまったのです。
「大臣! 何をしておる。早くメシを持ってこんか!」
「王様。誠に申し上げにくいのですが、食料が少なくなってしまいまして」
大臣がそっと差し示した先には、いつもより少なく、あまり豪勢ではない食事が。
「ばかもん! これっぽっちで足りるか! もう良い! 食事は外でとる!」
王様はプリプリと怒って、城下町へと出て行きました。
大臣はそれを必死に止めようとしたのですが、王様の心の飢えは強く、止めることは叶いませんでした。
城下町に出た王様。
そしてそこに広がっていたのは、とても寂しく、貧しい風景でした。
戸惑っている王様の前に、一人の民が。
「ああ、王様。このような場所へ一体なんのご用でございましょうか」
「う、うむ。腹が減ってしまってな」
「それは大変です。よろしければウチで食事でもいかがでしょうか」
「おう。なんだメシがあるのか。よい。案内いたせ」
王様が案内された先は、レストランではなく、普通の家でした。
「今から家族と食事をとるのです。王様に出すには貧相かもしれませんが、精一杯のごちそうを用意いたしますので」
「よいよい。気にすることはない。早くメシを出すのだ」
王様が案内された居間では、男の妻と、三人の子供がいました。
突然現れた王様に、みんなはびっくり。
そして妻は慌てて台所へ引っ込み、一生懸命に料理しました。
そして出てきたのは、大臣が差し出した料理よりも、もっと、もっと貧相な食事。
王様は 「なんだこれは!」 と怒りそうになりました、それよりも先に子供が喝采をあげました。
「うわぁ! すごいや! 今日はごちそうだね!」
「本当だ! すごいすごい! やっぱり王様が来てくれたから?」
「ありがとう王様! こんなご飯が食べられるのなら、毎日ウチに来てよ!」
王様はとまどいました。
こいつらバカか、と。本気で心配になりました。
喜ぶ子供の前で怒ることも出来なくなった王様は、しぶしぶテーブルに着きました。
ご飯はとても暖かかったのですが、素材も味もやはり貧相でした。
王様はしぶい顔をしながら子供達の顔を見ます。
「のう、子供らよ。美味いか?」
「うん! とっても!」
「すごく美味しいよ!」
「こんなご飯、始めて食べたよ!」
ほら見て、スープにお肉が入ってる!
子供達は本当に嬉しそうで。
なのに。
「このお肉、王様に分けてあげるね!」
――――『このメシはワシのものだ! 誰にも、一口だってあげないぞ!』
王様は。
椅子に座り直しました。
きちんと、姿勢を良くしました。
「ありがとう。いただくよ」
王様は、子供の飲みかけのスープから差し出されたお肉を、自分の器に移しました。
そしてそれを食べて、再び子供達の顔を見て、そして再度尋ねます。
「子供らよ、美味いか?」
「うん!」
「とっても!」
「王様は? 美味しい?」
王様は一気に全てを平らげて、にっこりと笑いました。
「ダメだな。あまり、美味しくない」
夫婦は泣きそうな顔になり 「このような些末な物しかなく、大変申し訳ありません」 と。
子供達はしずかにポロポロと泣き出して。
そして王様はいいました。
「だが楽しかった。とても満たされた気がする」
「この礼に、もっと美味いものを食わせてやろう」
「しばし待て」
「一つの季節が巡る前に必ずやお前達に本当のごちそうを、毎日食べられるようにしてやる」
王様は城に戻り、両手の拳をバキバキと鳴らしました。
「大臣。大臣はおるか」
「はっ、王様。こちらに」
「このドアホウ。城下町の惨憺たる状況はなんじゃ」
「……王様に心配をかけてはいけないと思いまして」
王様は大臣を一発殴り、そして自分の事も殴りました。
そして次の季節が巡るまで、王様はほとんど食事も摂らずに国政にあたりました。
いつか本当のごちそうを食べるために。
王様の前に、以前と変わらない食事が並べられました。
量も、味も、何もかもが以前と同じです。
ただ一つ違うこと。
テーブルには、みんなで食べるために、たくさんの食器が並んでいました。
おわり。