逃げられ太郎との出会い
その頃の真珠ねえは、毎日そこそこ幸せそうだった。仕事も充実しているようだったし、何より彼氏との関係が上手くいっているのだろうと傍目にもわかった。携帯を持って何かを打ちながらニコニコしていたしたまに長電話もしていた。話を聞くと相手はやっぱり年下で、真珠ねえのように仕事ができる年上の女性が好きそうな可愛らしい感じの男性だということだった。真珠ねえはどちらかというと自分が憧れるより憧れられる側の恋愛の方が好きらしく、それは自己肯定感を高めてくれるし何より仕事の活力になる。真珠ねえも落ち着いてきたし、そろそろ逃げられ子ちゃんは卒業かな。そう思っていた。異変が起きたのは数年ほど経ってからだった。ある日私が仕事から帰ると、真珠ねえの機嫌が悪かった。こういう時の真珠ねえにはあまり近寄らないのが正解だ。余計なことを言えば噛み付かれるし、言わないなら言わないで聞いて欲しそうにしてくる。ということで、私は早々に部屋に退散して境界のRINNEを読み耽っていた。すると案の定、真珠ねえが私の部屋を訪ねてきた。大きい目から涙がポロポロ溢れていた。よくそんな大きい目のまま泣けるな〜、と感心する。また、連絡がつかなくなった。と、真珠ねえは言った。今度こそ大丈夫と思っていたのに、ブロックされた。逃げられた。そう言って真珠ねえは泣いた。詳しく聞いてみると、どうやら数日前に喧嘩したらしい。それも相当派手なやつを。あーあ。私は心の中で相手の男性に向かって手を合わせた。恐らくこの地球上で誰よりも多く真珠ねえと喧嘩をしてきた私が断言する。真珠ねえと喧嘩をするとめちゃくちゃ怖い。口が達者なだけでなく、ものすごい正論とぐうの音も言わさない理論で責め立ててくる。そして真珠ねえは、何事もはっきりさせないと気が済まないし、言い出したら後には引けないのだ。自分でも悪いところだとは自覚しているらしいが、相手が親しい相手だったり相手に対して甘えたい気持ち、わかってほしい気持ちが強ければ強いほど止まらない。そしてとことん言った後に我に返って死ぬほど後悔するのだ。それでも受け止めてくれていた。今までは。恐らく、そういうことを重ねる間に少しずつ少しずつ、相手の中に我慢が溜まっていったのではないだろうか。こうして、逃げられ子ちゃんはいとも簡単に復活し、また量産型逃げ太郎をこの世に生み出してしまったのだ。それからというもの、真珠ねえは男性に対してますます慎重になった。マッチングアプリ使う人ってすごいよね、あんなの一番逃げやすいのに。などと、恋愛を全て逃げやすいか逃げにくいかで見ていた。そんなに逃げる人ばかりでもないと思うけど・・・と言っても真珠ねえの耳には届かない。みんな最後にはどうせ逃げる。そう信じているような感じだった。そんなときだったのだ。逃げられ子ちゃんこと真珠ねえが、逃げられ太郎と出会ったのは。