4歳ごろから、「夢かほんとかわかんない」という感覚が頻繁に訪れた。

 

ほとんどの場合、父方の曾祖父母、祖父母の家で起こった。

 

 突如、自分の周りに霧がかかったような感じ。

 つい数秒前まで普通に存在していた景色が急に現実味を失う感覚。

 自分は自分であり1つしか存在しないことは明確で幽体離脱とは異なるのだが、周りの景色から自身だけが置いて行かれる。自身も周囲も、存在すべてがよそよそしく変化するのだ。

 

その全てがものの1秒で突然に起こるから、子どもにとってはとても恐ろしい体験だ。

慣れればどうってことはない。

ただ、場所も同じであることが多かったため、当時のわたしは(このお部屋にお化けがいるのかな?)などど考えたりしていた。

 

 

 わたしはその症状が起こる度に「あ!また今、夢かほんとかわかんないが来た!」と周りの大人に伝えて、どうにか理解・共感してもらおうとしていた。

当時のわたしの精一杯の表現である。

 

しかし、何度「夢かほんとかわかんないが来た」と言っても、答えは

 

「眠いんだよね」「貧血かな」「お風邪かな」「ジュース飲む?」

 

理解してくれる大人は1人を除いて居なかった。

その場にいる親戚のほとんどが医師であるにもかかわらず、だ。

 

その度にわたしは、(大人たちは何故こんなにも話が通じないのだろうか。お医者様が何でも知っていて偉いって嘘だ。眠いだなんてそんな乳児の錯覚めいた感覚と一緒にしないでほしい)とはっきりと強い怒りを覚えていた。

 

この不思議な感覚は、おそらく中学2年生程度まで続き、そこからさっぱりと無くなった。

 

眠くもなく、体調不良でもなく、デジャブとも違うのだ。

 

 

大人になって心理学に興味を持ちふと調べて、初めてぴたりと当てはまる症状を知った。

 

 

『離人感・現実感消失症』である。

(以下、サイトよりお借りします)

  • 離人感:実際の体験と感覚・感情・思考・行動などといったことが分離し、自己がバラバラに感じられること
  • 現実感消失:周りの世界に対する非現実間やなじみのなさといった知覚が分離されているように感じられること
 
原因は、遺伝・性格・ストレス・トラウマなど様々なようで、平均発症年齢は16歳でありこんなにも幼少期に発症するのは珍しいようだが、今でもリアルに思い出せるこの感覚は他にないと思う。
 
 
おそらく、義祖父母の家という母にとってストレスマックスの環境で、幼いながらに精神的なストレスを感じ取っていたのだと思う。
母はそこの帰りは100%機嫌が悪く、帰宅後最低でも数日間は家庭内が最大レベルに不和になることは明確だった。
また、この感覚が終わったのが中学2年ごろというのも、わたしの母という存在への認識が大きく変わった時期であるため、答えとして的を得ていると思う。
 
 
1人だけ、わたしの症状を言い当ててくれた大人がいた。
 
父方の祖父である。
 
彼はわたしの「夢かほんとかわかんないが来た!」を1度もごまかしたり馬鹿にしたりすることはなく、幼児に対してではない態度で、
 
「そういうことはあるけど、それはすぐに収まるから怖がらずに治そうとせずにそのままにしていたらよい」
 
と冷静に言った。
 
症状名こそ言わなかったしわたしが9歳の時に他界した祖父が何をどこまでわかっていたのか今となっては不明であり、当時すでに医学界にこの名前があったのかもわたしにはわからない。
 
でも小さなわたしが(夢かほんとかわからないが来ても大丈夫だ)と思えた祖父の言葉と存在は、今でも思い出すと少しあたたかいような記憶にふわふわと包まれている。