精神医療には「二つの筋書き」がある・・・
第一世代の精神科治療薬の発見から、それが「魔法の弾丸」へと変貌を遂げるまでを振り返ると、1970年までの歴史展開として二通りの「筋書き」が考えられると著者・ウィタカー氏は述べている。
第一の可能性は、精神医学は驚くべき幸運な偶然によって、数種類の薬を発見し、その薬は動物に異常行動を引き起こすにもかかわらず、精神病患者の脳内の化学作用の様々な異常を修復できるものだという筋書きである。
第二の可能性は、精神医学は独自の「魔法の弾丸」を所有し医療の主流に加わることを切望するあまり、薬を実際とは違うものに化けさせてしまった。実は第一世代の治療薬は、動物実験が示すように、正常な脳機能を混乱させる薬にすぎない、という筋書きだ。もしそうだとすると、長期的転帰(1)は問題だらけであると考えられる。
Nicoの読者のみなさんは、どちらの「筋書き」が正しかったのか、もうお分かりだと思う。
しかし、メディカル・マフィアはその後懲りることもなくお抱えの著名な精神科医に
「うつ病患者のほぼ30%にセロトニン濃度の低下が認められる」と発表した。
だが今日、もう一度アスペルグの研究とそのデータを見直すと、うつ病の「生物学的サブグループ」の「発見」には、かなり予断(バイアスの事 : Nico注釈)が入っていることが分かる。
アスペルグの研究からはうつ病のセロトニン仮説を信じるべき新たな証拠は何も出てこない。
1984年NIMH(2)は再度、うつ病の低セロトニン仮説の検証に取り掛かったが「セロトニン作動性システムの機能の亢進や低下そのものが、うつ病に関係するとは考えられない」との唯一可能な結論を導き出した。
しかしNIMHの報告にもかかわらず、「セロトニン仮説」は完全には消滅しなかった。
1988年にイーライ・リリー社が「SSRI」プロザック(Nicoが最初に服用した危険なクスリ)を発売し商業的成功を収めると、うつ病の原因はセロトニン濃度低下であるという説明が「大衆レベル」で復活した。
そして またもや多くの研究者がその真偽を確かめる為に実験を重ねたが、何度やっても結果が代わるはずはなかった。
1995年 精神科医コリン・ロス(ダラス・サウスウェスト医療センター)
「臨床的うつの原因が何らかの生物学的な欠損状態であるという科学的証拠はない」
2000年 コリン・ロス
「モノアミンの不足がうつ病の原因であるという明白で説得力のある証拠はない」
2003年 精神科医デビッド・バーンズ(スタンフォード大学)
「うつ病をはじめとする精神障害が脳のセロトニンの欠乏の結果であるという説得力のある証拠は一見つからなかった」
とうとう2005年 精神科医デビッド・ヒーリー
「セロトニン理論は他の信憑性のない理論と同様、医療廃棄物として捨て去るべきだ」とまで言い切った・・・
日本の精神科医達はどこまで、このような意見を無視し続けることができるのだろうか・・・
Nico
(1)転帰
病気や怪我の治療の経過および結果(の見通し)のこと。治癒、死亡、(治療の)中止の3つに大別される。
(2)NIMH
National Institute of Mental Health
1946年アメリカ連邦議会は全米精神保健法を可決し、精神障害の予防・診断・治療の研究に援助が与えられ、州立・市立のクリニックや治療センターの設立に補助金が出るようになった。そして1949年議会はこの改革の監督機関としてNIMHを創設した。
NIMHの使命は、予防、回復、および治療のための道を切り開いて、基礎および臨床研究を通じて、精神疾患の理解と治療を変えることだとされている。