ショパン 葬送行進曲 ピアノソナタ第2番変ロ短調「葬送」 Op.35 古典調律聴き比べ動画を、ニコ動が使えないので暫定的にDailymotion にUPしました。

演奏は、古い自動演奏ピアノに記録されたものをMIDI化したもので、1912年に Adriano Ariani というピアニストの演奏を記録したものです。ウィキペディア等に情報が無いか検索してみましたが、Wikidata という所に断片的な情報があるのみでした。 1877年生まれ、1935年没、イタリア出身の作曲家・ピアニストです。中間部の繰り返しは省略されています。

 

Dailymotionは、最初は音声がミュートになっているので、ミュートを解除して聴いてください。

 

 

 

 

 

葬送行進曲は昔、ゲームのバッドエンディングなどでよく使われたので、クラシックに興味が無い人にまで知られているという意味では、世間に一番よく知られているショパンの曲かもしれません。

非常に暗い曲なので、一般的な演奏会で演奏されるのは稀と言って良いと思いますし、録音を好んで聴く人も少ないと思いますが、ショパンコンクールではなぜかよく演奏されることと、知名度の高さからとりあげました。

 

変ロ短調 ・中間部は変ニ長調で、いずれも調号にフラットが5個つく調です。黒鍵を主に使うので、和音の響きはむしろ平均律が一番綺麗になります。 キルンベルガー音律やヴァロッティだとピタゴラス音律的になります。モデファイド・ミーントーンでは黒鍵の5度は純正よりさらに広く合わされたり、ヴォルフがあったりするので、和音の響きはガタガタになります。

 

では響きが綺麗な平均律が一番いいのかというと、これが微妙で、綺麗な響きが欲しいのならばそもそも白鍵を主に使う調を選んだはずなんですよね。当時の調律事情を考慮すると、むしろあえて和音の響きが汚くなる調をショパンが選んだ可能性もあることになります。古典調律は、「平均律より響きが綺麗」ということばかり強調されがちですが、それは裏と表の片面の話でしかありません。「平均律より汚い響きを作りだす事もできる」というのも、もう1つの古典調律の顔なのであり、その表現の幅の広さが古典調律の魅力の1つだろうと思います。

 

曲の中でD-Aの和音が出てこないので、キルンベルガー第1 でも演奏可能です。冒頭の雰囲気はより重々しく、和音の響きは平均律よりさらに悲劇的で冷たい印象になります。5度が純正なので安定感があります。
 
ショパンの曲を調べていると、こういうふうに頻繁に キルンベルガー第1 で演奏可能な有名曲が出てくるので、「キルンベルガー第1 って実はすごく使える音律なんじゃないか?」と錯覚しそうになりますが、これは19世紀前半という時代に特有の傾向で、他の時代には「偶然かな?」という程度の頻度でしかキルンベルガー第1で演奏可能な曲は見つかりません。これは逆に言うと、この時代、キルンベルガー第1 が実際にある程度使われていた可能性を補強する事例になると思います。

 

 

平均律の場合にもう1つ困るのは、途中で部分的に長調に転調する所が、平均律だとあまりにも「取って付けたような感じ」になってしまい、解釈に苦しむんですよね。長調と短調をふらっと行ったり来たりするのはミーントーンの曲でよく使われるテクニックで、お葬式は教会で行われるものですから、そういう事情を考慮すると、教会でよく使われるようなモデファイド・ミーントーンもしっくりくるはずだ、と思ったのですが・・・

 

実際に、たとえば最後のシュニットガーの音律と合わせてみると、Eb-G#のヴォルフのせいで、いくつかあまりにも壊れた響きが生じてしまい、さすがにこれはちょっと無理がありそうに見えます。ヴォルフのないラモーだと、もうちょっとましです。平均律より響きの汚い和音というのも、悲しい気分、悲愴な気分を表現するのにあえてそうした、と解釈できなくもないかな?というギリギリの所かと思います。部分的に長調に転調する所の「取って付けた感」は、ラモーだと軽減される気がします。