調律法をテストするためのピアノ音源として、Pianoteq 8 をやっと導入しました。

 

 

それで、テスト的にPianoteq8を使った聞き比べ動画をYoutubeにUPしました。本当はこういうテスト的な動画はニコ動にUPしたかったのですが、ニコ動がダウン中のためやむをえずYoutubeにUPしています。

 

 

今までは2018年に購入した Pianoteq 6 とIvoryⅡを普段使いしていました。6年ぶりの更新です。IvoryⅡは今後もまだ平行して使うと思いますが、Pianoteq 6 でカバーしていた部分は 8 に置きかえていくことになるでしょう。

まだ使い始めたばかりなのでよく解ってない所も有りますが、合成音のノイジーな感じが低減されて、よりクリアな音色になった感じがします。

 

Pianoteq の音源は、生のピアノの音を録音したものではなく、生ピアノの音を分析した上で、ほとんど同じような音が出るようにした合成音です。なので、弦の振動のシミュレートは上手なのですが、ピアノの響板の木材が鳴る感じとか、音楽ホールの舞台の上のピアノが鳴っている空気感、みたいなものは苦手でした。Version 8 ではその欠点も以前より目立ちにくくなった気がします。

 

Pianoteq の長所の1つは、合成音なので、「同じ音程の弦の音程を微妙にずらす」という調整が自在にできることです。これはサンプリング音源では困難なことです。それから古典調律の設定や、ストレッチの調整が、他のピアノ音源とは比べ物にならないほど容易で使いやすいです。これは Pianoteq の開発者がピアノの調律師だったことによるものらしく、他のDTM音源とは大きく異なる点で、私のように古典調律についていろいろ調べている人間にはとてもありがたい機能です。

サンプリング音源だと、元の生ピアノの音程の微妙なズレを排除することが困難ですが、Pianoteqは合成音なので、その点も自由自在で、おもしろいのは逆に「音程が狂ったピアノ」を簡単に再現する機能までついているということです。

 

それから、もう1つ特筆すべき点として、Pianoteqは博物館に収蔵されているような古いピアノの音源を積極的にライブラリに加えているという事が挙げられます。

 

 

 

上記の 「Kremsegg2」の中に、「 I. Pleyel grand piano (1835) 」というのがあったので、それを今回テスト的に使用してみました。ショパンが所有していたものとは少し外観が異なりますが、ショパンが生きていた時代のピアノということで興味が湧きますよね。

 

Pleyel の音色を使ってみて解ったことは、Pleyel のフォルテシモの音は、かなりぶっ壊れた感じの音になりがち、ということです。合成音とはいえ、これは本物のプレイエルピアノも少なからずそういう傾向があるために、それをそのままモデリングしてこうなっているのでしょう。Pleyel でショパンの曲を現在私たちがイメージするようなショパンぽく演奏しようと思ったら、mf 以下の強さで演奏しなくてはなりません。

 

ここで興味深いのは、「弟子から見たショパン」の本の中に、ショパンの演奏するピアノの音が小さかったという話がしつこく出てくるという話との関連性です。「ショパンのフォルテシモは、普通の人の mf ぐらいの強さだった」という話を思い出して、「そういうことか!」っていう話になる訳です。要するに、当時のプレイエルのピアノはフォルテシモの音色が酷過ぎてショパンにとっては使い物にならず、そういう物理的な制約のために mf 以下で演奏せざるをえなかったのではないか?? という話になってくるわけですね。そうだとすると、金属フレームが使用されるモダンピアノではその点が大幅に改善されていますから、「モダンピアノでも小さな音で弾くべき」という話は考え直す必要があるかもしれないなと思いました。

 

もともと「ピアノフォルテ」もしくは「フォルテピアノ」と呼ばれていた楽器が、なんで「ピアノ」と略されるようになったのかというのも、もしかしたら「フォルテの音色がひどくて使い物にならねーよ!」という話とセットだったかもしれないと考えると面白いですね。

 

Pianoteq上では、べロシティ設定というのでタッチを mf 以下に制限できるので、上記の動画はその機能を使って mf 以下で演奏しています。こうした場合の欠点としては、ペダル操作や鍵盤操作に伴うノイズ音が相対的に大きく聴こえてしまうという点がありますが、合成音が不自然に聴こえがちなPianoteq的には、むしろこういうノイズがあったほうがより自然に聴こえるようにも思われるので、そのままノイズも収録しています。

  

 

古典調律については、新しい試みとして、コレットの音律と、クープランの中全音律を聞き比べに加えてみました。そのため、モデファイド・ミーントーン系の音律ばかりを並べることになりました。コレットとクープランの音律は、ラモーやシュニットガーより少しクセ強めな音律で、モーツァルトの演奏などで使用される事例があるようです。この「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」との組み合わせも、大きな破綻は無いように思います。特にクープランとの組み合わせはなかなか興味深い響きを聞かせてくれます。

 

Pianoteq 8 のプレイエルのピアノの音色と現在のピアノの音色の違いで気がつくのは、中低音域がちょっとガット弦ぽい響きで、モダンピアノより軽やかに聴こえるという点ですね。バッハのWTCなどでは低音部に早い動きが出てくるので、低音の音色が軽やかなほうが具合がよく、ショパンの曲もそういう影響下にあったのだなと気がつきます。

 

テスト動画を纏めるにあたり試行錯誤したのがストレッチの設定です。上記のテスト動画では、私の動画史上もっともストレッチを強くかけています。この「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」という曲の中では、光の輝きを高音の装飾音で表現するようなフレーズが多用されているので、その「キラキラ感」を生かそうとすると、ストレッチをかなり強めに設定せざるをえませんでした。ショパンの時代に、ストレッチがどの程度かけられていたかという点については、一致した見解のようなものは私は見たことが無く、まだ謎の多い部分です。