ショパン エチュード Op. 25 の12曲が揃いましたので、総集編を制作しました。

まずは キルンベルガー第1だけを集めたバージョンです。

 

 

 

改めて通して聴くと、No.3 F major で D-A のヴォルフが出まくるのが気になることと、No. 11 「木枯らし」で厳しいところはあるものの、全体としてはメリットの方が上回るという解釈も可能だと思うんですよね。

 

キルンベルガー第1法というのは、音律研究者の間でもかなり軽視されている音律で、それというのも「D-Aにヴォルフのある音律が実用になるはずが無い」と根拠もなく決めつけられてしまっているんですよね。この「根拠の無い決めつけ」ってアカデミズムがやっちゃいけないことの1つだと思うんですけど、そんなことが現在に至るまで堂々とまかり通っているという現状に、私は真剣に怒っています。

 

Wikipediaでさえキルンベルガー第1法についての解説はほぼ無いに等しく、これは日本語版だけでなく英語やドイツ語・フランス語のWikipediaでも似たような扱いです。

 

現在では、音楽が過度に商業化されすぎているという時代的背景はあるとは思います。特にプロの場合、明らかな欠点のある音楽を商品にして売れるのか?と言う問題はあるでしょうね。こういう目立った欠点があることは、商売をする上ではデメリットしかない。それはそうでしょう。

 

私がキルンベルガー第1法を推せるのは、私が音楽で飯を食ってないからです。

 

しかしそれにしてもですね、ショパンが「キルンベルガー第1法を上手く使いこなしてやろう」と工夫を凝らしたに違いない形跡というのは、そういう目で調べなおすと色々な所に顔を出すんですね。中でも Op.25 は、そういう所が特に多い曲集です。これは1つには当時の時代的な背景と、もう1つ、宗教的な背景というのがあっただろうと私は考えています。

 

時代的な背景としては、当時はまだ「調律師」という職業が一般的ではなかったということを考慮すべきです。ピアノメーカーが積極的に調律師の養成を始めるのは1950年代以降の話で、ショパンの時代にはピアノの調律というのはピアノの所有者か、または演奏者自身がしなくてはならない事でした。小さな子供だったらピアノ教師がやってくれたかもしれませんし、お金持ちなら使用人に調律手順を教えて調律を任せたかもしれませんが、いずれにせよショパンのエチュードを練習するレベルの人と言うのは、少しでも長くピアノの練習時間を確保したい人たちな訳です。それは逆に言うと、ピアノの調律にかける時間は、なるべく減らしたかったはずなのです。そういう需要にたいして、キルンベルガー第1というのは調律法が最も簡単な部類に入ります。これよりシンプルな音律はもはやピタゴラス音律しかありません。それで練習に使えるレベルの響きになるのならば、それはピアノの演奏者にとって都合の良い事だったのです。

 

もう1つ、宗教的な背景というのは、キリスト教が祭壇の真ん中に十字架をかかげる宗教だということです。私はキリスト教徒じゃないのであまり込み入った話はできませんが、はしょって言うと、「イエス様が身代わりになってくれて、すべての人の罪を背負って処刑されたお陰で云々」みたいな世界観がある訳ですね。一方、この純正律のヴォルフというのも、逆に言えば「ヴォルフがあるお陰で主要3和音が全て純正になる」という関係性がある訳ですね。つまり、純正律におけるヴォルフの存在と言うのは、キリスト教のキリストに匹敵するぐらい実は重要なんじゃないか、という見方もできる。構図としてキリスト教ととても相性が良い、ということは覚えておいてもいいと思うのです。

 

こういうことがまるっと無視されて、無かったことにされているというのは、とても残念なことで、それに一石を投じたいと思い、この動画を纏めました。