「昭和の歌と古典調律」というテーマで、各年代の流行曲の聴き比べ動画をニコ動にどんどんUPしています。今、1937年から1994年までがだいたい埋まりました。これからさらに追加していきます。既存のMIDIアーカイブから借用したものと、私が打ち込みで作った音源で構成されています。

 

 

 

 

こうやって俯瞰して見た時に、「これは平均律の曲だな」というのが日本でヒットチャートにあがり始めるのは、1990年代になって「愛は勝つ」とか「ロマンスの神様」とかが出始めてから、ということが言えそうに見えます。

 

「愛は勝つ」

 

「ロマンスの神様」

 

この2曲に共通するのは、まず、この転調はもう古典調律では無理があるということです。平均律で作曲してないと、この発想はちょっと出てこない感じがします。ヴァロッティなら大きな支障はないですが、ヴァロッティの長所を積極的に生かすという感じでもないので、まぁ「平均律の曲」に分類するのが妥当かと思います。それから、この2曲とも、自分で作曲して自分で歌っているという事も共通点ですね。ですから、歌声まで平均律かというとそんなことは無くて、歌では上手に高め・低めの音程を使い分けて表情付けしてますよね。それはもう既存の何かの音律にあてはまるようなものではなくて、それぞれ独自の世界観を構築することに成功しているように見えます。

 

音楽家を取り巻く環境としては、1980年代に出始めたデジタルシンセサイザーと、安価な電子チューナーの普及で、12等分平均律が身近なものになったわけですけど、実際に12等分平均律の特徴を生かした曲がヒットチャートにあがるようになるまでには、これぐらいの時間がやっぱりかかるんだなという感想です。

 

一方、1990年代にヒット曲を連発したこの人の作品はもうちょっと複雑です。

 

「恋しさとせつなさと心強さと」

 

原曲はバリバリのシンセサウンドなので、バリバリの平均律かと思うじゃないですか。しかし実際に鳴らしてみると、平均律ではちょっとイマイチで「コレジャナイ」感があります。平均律の三度の濁りのせいで、爽快感が損なわれてしまうのです。一方、1/6~1/5コンマミーントーンぐらいが上手くハマる所が思いのほか多い事に驚かされます。主旋律の歌声の音程のクセも、ちょっとミーントーンぽいズレ方をしています。小室哲也は1958年(昭和33年)生まれで上記の2人より少し年上で、根っこはやっぱり昭和の歌なんだなという感じがします。ところがそこで話は終わりません。曲の終盤では、古典調律では具合の悪い転調も出てきます。デジタルシンセなら、音律の切り替えも可能ですし、あるいは別取りしておいてレコーディング上の編集でどうにかすることも難しい話ではないので、たぶんそこまでやってるんだろうと思われます。