毎日少しづつネタ堀りをやっているんですが、今日は調律法の視点で見た時に特別おもしろいやつを見つけました。「男はつらいよ」主題歌 です。

 

 

 

主旋律はいわゆるヨナ抜き音階、ペンタトニックなので、調律上の制約はかなりゆるいです。まぁ元が寅さんの歌ですし、少々オンチでもサマになる曲です。じっさい、ピタゴラス音律からミーントーンまで、大きな破綻なく演奏可能なんですが、調律が変わると、曲から受ける印象はちょっとづつ違ってきます。

 

5度を純正に取るピタゴラス音律は解放感があります。強い日差しの青空の下を、寅さんが1人でふらふら歩いているようなシーンを連想させます。日本の伝統的な音楽も5度は純正に取るのが基本ですし、日本の伝統的な風景のイメージとも相性が良いです。一方、ピタゴラス音律だと伴奏の和音が綺麗にハモりません。しかし、これはこれで、「何をやっても微妙にうまくいかない寅さん」のイメージに合っている気がして、これはこれでとてもイイですよね。ハモらない伴奏の有効活用の事例としては、私が知る限り最高峰の1つと言えるんじゃないでしょうかw

 

5度を狭く取るミーントーン系の音律だと、伴奏の和音が奇麗にハモるようになり、温かみや団結感が出てきます。この曲の基本的な骨組みは戦前の軍歌とよく似ていて、軍歌がそうだったように、この曲も基本的にはミーントーンととても相性が良いです。その一方で、5度が狭いために閉塞的な印象の響きになります。これはこれで、寅さんが葛飾柴又に帰ってきて、地元の暖かい人情に触れると同時に、めんどくさい人間関係のせいで窮屈な思いをする、というシーンのイメージとかぶるんですよね。おもしろいですね。

 

どっちの音律でも、それぞれ異なるシーンにそれぞれうまくハマるという多面性がとても面白いです。1つの同じ旋律・同じ伴奏で、こんなことが実現できているというのは奇跡と言ってよく、とてもすばらしいことだと思います。