学生のころ、一度調べたことがあったんです。ベートーベンの交響曲第九番に合う調律法はどれかなと。ただ、その時は、ミーントーンについては調べてなかったんです。調べる前から、合う訳ないだろうと。

 

 

それから30年後にそのことを後悔することになるとは・・・!!!

 

 

オケのMIDI打ち込みデータの音色をピアノに変更して作ったやっつけ版聞き比べ動画です。ちゃんと作ろうとすると死ぬまで作れない気がするので雑なのはご了承ください。↓

 

 

平均律も上品に聞こえるし、平均律で問題ないじゃないか、という人も居そうな気はします。ただし、平均律だと、悲しげなニュアンスが付いてしまって、「歓喜100%」にならんのです。これに対して1/4コンマ・ミーントーンや2/7コンマ・ミーントーンの Tutti は、「歓喜100%感」がすごい。この効果が偶然であるはずは無いのです。じっとして聞いていることができずにノリノリになっちゃう。ミーントーンはこういう喜びの表現が得意なんです。

 

ちなみに、「オケ曲なのでピアノの調律法は関係ないだろう」という指摘を受ける場合がありますが、これは「ベートーベンが作曲するときにどういう調律を使っていたか」という点に注目して行っている取り組みです。ベートーベンは作曲時にピアノを使用したはずですからね。

細かいことを言えば、ヴォルフ1カ所のレギュラーミーントーンで微妙な響きになる所もあるんですが、そういう所はだいたいオケが薄くなっているんですね。オケ曲ですから、そういう所は「ソリストにうまいことやってもらおう」とあてにできるのです。

 

シュニットガーもかなり良い。「ケチの付け所の無さ」ではレギュラーミーントーンに勝ります。一方、「全体を通して退屈せずに聞けるのはどれか」「一度聞いた後、また聞きたくなるのはどれか」という視点でみるとレギュラーミーントーンに軍配が上がるように思うのです。( 作曲家は誰でも、わざわざ退屈する曲を作曲しませんし、作曲した曲は何度でも演奏され、何度でも聞いてほしいものです。)

 

 

歌詞の内容が讃美歌のようなもの、ということもあり、ミーントーンで演奏すると、宗教曲感はかなり強くなります。

 

 

Youtubeで第九のピアノアレンジ版の演奏を聴いていたら、明らかに平均律ではないものがありました。

フランス出身の世界的ピアニスト、シプリアン・カツァリスの演奏です。

 

 

言われないと案外気が付かないと思うんですよ。でも、先の聞き比べ動画を聞いた後ならわかると思うんですが、けっこう癖の強い音律に調律されてますよねこのピアノ。1/6コンマよりはもうちょっと癖が強い。強いていえばシュニットガーに近いのかなと思います。シュニットガーに似たモデファイド・ミーントーンはめちゃめちゃ多くの種類がありますから、なかなか聞いただけで「これ」というのは難しいですが、少なくともぜんぜん平均律じゃないことは明らかです。

 

 

「ベートーベンが作曲時にミーントーンを用いていたかもしれない」と感じさせる要素はたくさんあるんですが、決定的なのは曲の最後の方で二長調 から#5個の ロ長調に転調する直前のGからG#への浮遊感、およびロ長調に転調してからの下りですね。G#-Ebにヴォルフがあるミーントーンにとって、ロ長調というのは極めて使いにくい調なんです。もし平均律で作曲していたなら、ミーントーンと合わせたときにはガタガタになります。ところが第九の4楽章ではそうなっていなくて、ベートーベンは裏ミーントーンを上手に使いこなしているわけです。この効果が偶然である可能性はほとんど無いと思います。これは実際にミーントーンの楽器を目の前に置いて作曲するのでなければ、ありえないです。