もう1曲いっておきましょう。アントニオ・サリエリの「レクイエム」ハ単調から 1.Introitus, Kyrie  を音律聞き比べ動画に纏めました。

 

 

1/4コンマ・ミーントーンは明らかに合ってなくて、調子っぱずれの音が頻発します。この曲が作曲されたのは1804年だそうですから、さすがにそれも当然か、という所ではあります。ハ短調だとAbの音が出てきますが、標準的な1/4コンマ・ミーントーンではAbの黒鍵はG#用に調律されているので、そこでちぐはぐになってAbの音程が問題になりやすいのです。

 

モデファイド・ミーントーンのシュニットガーやラモーも、調子っぱずれだったり和音の響きの具合が悪いところがまだ多くあります。1/6コンマ・ミーントーンやキルンベルガー第3になるとだいぶ聞きやすくなります。実際に、1/6コンマ・ミーントーンやそれをモデファイしたもの(響きのイメージとしては1/6コンマ・ミーントーンとキルンベルガー第3の中間ぐらい)が施されたパイプオルガンが多数現存しますので、この辺が落としどころのようにも思われます。

 

しかし何度も繰り返し聞いていると、2番目のシュニットガーも、これはこれでアリなような気もしてきます。シュニットガーもパイプオルガンのための音律でした。やや調子っぱずれな音がありはするのですが、そもそもこのレクイエムというのは「死者のための典礼で歌われるミサ曲」なんですよね。レクイエムを直訳すると「安息」というような意味だそうですが、人が亡くなったら関係者は悲しく、つらいのが人情じゃないですか。前回の曲では、「きれいに協和して響く和音は祝祭向き」と説明しました。一方、死を悼むレクイエムは、その真逆なわけです。あえて和音がきれいに響かない方が、悲しい・苦しい心境を歌うレクイエム向き、という音楽解釈もアリかもしれません。「ハ短調」はその調性格から、他の作曲家の作品でも、葬儀むけの楽曲でしばしば使われていたようです。