日弁連総会オンライン化に向けた活動についての報告書
1 活動のスタート-1つのつぶやきから始まった このたびの運動は、日弁連WEB総会実現提言の会の呼びかけ人の1人である太田伸二が、2020年9月5日にTwitterで下記のツイートをしたことがきっかけである。「どれだけ賛同を得られるか分かりませんが、日弁連総会について「各単位会とテレビ会議でつなぎ、そこも『議場』として議決権が行使できる」という案を考えてみようと思います(それをどうするかはまだ考えていません)。このような改善提案、どうでしょうか?」このようなツイートをしたのは、2020年6月に予定されていた日弁連総会が新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって延期されるなど、リアルに会員が集まる形での開催に困難を来していたことである。この時点では、感染対策のために様々な会議がオンライン化されていたこともあり、日弁連総会もオンラインでの出席が可能となれば、感染拡大の影響を小さくできるのではないかと考えた。それにとどまらず、自身の病気や障害、高齢のため、あるいは家族の介護、看護、子どもの養育などのために遠隔地の総会に出席するための移動が困難な弁護士も多くいる。そういった弁護士が総会に参加できるようにすることは、会内民主主義の充実のために望ましいと考えたことも、この提案をすることになった大きな理由である。 このツイートを読んで共感したメンバーが集まり、「日弁連WEB総会実現提言の会」が発足された。メンバーは全国に分かれており、月1回以上行っていた会議は、すでに広く普及していたZOOMを使って行った。テキストでの情報伝達については、Slackなども検討したが、多くのメンバーが慣れているメーリングリストを作ってメールで行った。 実現提言の会の当初のメンバーは6名である。少人数ではあったが、そのことによって意思決定のスピードは上がり、課題が生じるごとに機動的に会議を持つことができた。2 日弁連会長に会いに行く、そして、少し前進させる 日弁連でオンラインでの総会をどうやって実現できるかを検討した結果、日弁連の会則の変更が必要だという認識が共有された。会則の変更は日弁連総会の決議を要する事項であることから日弁連執行部が提案してもらうのが最もスムーズだと考えた。 そこで、太田が日弁連の荒中会長(当時。太田と同じ仙台弁護士会所属である。)と面談し、日弁連のテレビ会議システムを使って各弁護士会とつなぐ形でのオンライン化の要請を行ったが、荒会長からは実現に動くような発言はなされなかった。ただ、対面で対話をしてこちらの意図を伝えたことで、その後も日弁連執行部とは意見交換の場を持つことができた。日弁連執行部には総会のオンライン化を直ちに実現する意向は無いと分かったことから、まずはオンラインでの傍聴を実現させるべきと考えた。そこで、当会は、日弁連が導入しているテレビ会議システムか会員のみが閲覧できるように設定した動画配信サービスなどを通じて日弁連総会の傍聴ができるようにすることを求める「要請書」を作成し、2021年1月26日に日弁連に提出した。要請書には当会メンバー以外の各地の会員(日弁連副会長経験者なども含まれる。)にも名前を連ねてもらっていた。 この要請書の提出後、日弁連は2021年3月に開催する総会について、中継された映像を各単位会の設けた場所(会議室等)で傍聴することを認める決定を行った。当会の働きかけだけが原因ではないと思われるが、一定程度影響を与えた可能性がある。3 会則改正へ-思ったよりも遠かった道のり 各会の会場に行かなければならないが、オンラインでの傍聴が実現したことを受けて、ここから一歩進めて総会のオンライン化を実現するため、当会は日弁連会則の改正に向けた取組みを始めた。 総会の議題とするためには300人での発議が必要となる。そこで、ブログやTwitterでの発信や会員への一斉FAXなどを通じて発議への賛同を求めたところ、次第に賛同者が増えていった。最終的には300人を超える賛同者から署名押印をした発議書を受け取り、それを日弁連に送付することができた。 ただ、会則の改正を日弁連総会の議題にするには理事会の承認を得ることが必要だった。当会としては発議者を募るところまではできたが、理事達に対する説明、説得の機会を持つところまでは至らなかった。そのため、残念ながら理事会での承認を得ることはできず、総会での議題とするところまでは至らなかった。 執行部の協力が得られない中で、会則の改正を実現しようとしたことはかなりハードルが高いチャレンジであった。理事会決議を回避するためには、会則改正ではなく「総会のオンライン化の実現を目指す総会決議」などの形にする工夫が必要だった。 会則改正は議題とはならなかったが、2021年6月11日に開かれた総会には当会のメンバーも参加し、総会オンライン化について検討する組織の設置などを求める質問を行った。また、当会の活動をより活発にするため、この問題に関心のあるメンバーの増員も行った。そして、実際にオンライン化を行った弁連大会の情報を収集したり、その実施をサポートした会社に聞き取りを行ったりといった調査活動にも取り組んだ。4 会長選挙-目の前のチャンスを逃さない! 日弁連総会で議題にすることができなかったことから、当会では次の方策について検討を行ったところ、翌年に迫った会長選挙で争点化することが実現に向けた一歩となるのではないかという意見が出た。 そこで、会長選挙に立候補すると見込まれる各陣営とZOOMを用いたオンライン形式で面会し、オンライン化の必要性を訴えた。その面会では、日弁連内に検討組織を作るべきである等、その後の活動にとって有益な示唆を得ることができた。 会長選挙が近付いてからは各陣営に対し、「総会のオンライン化のメリット・デメリット」、「オンライン化した総会の開催方式」、「オンライン化実現に向けたワーキンググループの立ち上げ」、「オンライン化への賛否」を問う公開質問状を送付した。これに対する各候補の回答をまとめてブログに掲載するとともに、全会員に対して一斉FAXを行った。 2022年2月4日に実施された会長選挙では、「検討機関を設置すること」をアンケートで回答していた小林元治候補が当選し、2022年度・2023年度の会長に就任した。 このような経緯から、弁護士会員側で実現したい政策課題がある場合には、会長選挙において争点化するための取組みを事前に始め、存在感をアピールした上で各候補に意見を聞き、実現のための方策を具体的に回答してもらうことが重要であると考える。5 オンライン化ワーキンググループ-実現したこと、しなかったこと 小林会長が就任した後の2022年6月に「総会オンライン化ワーキンググループ」(以下「WG」という。)が設置された。総会のオンライン化は日弁連の重要な課題であり、広く意見を求める必要があることから、各単位会から1名以上の選任が望ましいと当会は考えていた。実際には各地から会員14名が委員として選任された。当会からは太田が委員として参加した。 WGは当初は2か月に1回程度のスピードで議論が行われ、とりまとめが近づいた時期からは1か月に1回程度のペースで開催された。議論はオンライン化に向けた4つの課題(「出席」の概念、定足数の管理、所要時間・質問等の制限、代理出席)を1巡目、2巡目と繰り返し検討する形で行われた。 太田からは技術的な課題の検討のため、専門業者への相談も提案したが、実施はされなかった。これは現状の仕組みの問題や理念的な問題が大きいことから技術的な側面だけで解決ができないので業者への相談は不必要であることや、取りまとめまでの時間が無いこと等が理由とされた。ただ、技術的な問題も実現のための課題とされている以上、技術的な問題はどこまではクリアできるか(クリアできないか)を明らかにするために、業者に加わってもらった形での技術的な検討は必要だったと考える。 また、少人数の委員によるWGでの会議になったことは、議論の充実化に資する点はあったものの、このWGの取り決めとして情報を外部で報告することができなかったため、WG外での実現に向けた機運の盛り上げ、会内世論の喚起などはしにくくなってしまった。 以上の問題はあったものの、WGでの議論は充実したものとして行われ、7月20日付けで「総会のオンライン化に関する検討報告書」が作成された。結論としては、技術的・予算的な課題のほか、技術や予算では解決が難しい本質的な課題も残存していることから、少なくとも当面の間はオンライン出席を導入しないという結論に達したことが記載された。 その一方で、より多くの会員に総会の議論をリアルタイムで提供することの重要性が再確認されたとして、会員個人のパソコンからのオンラインによる視聴を認める方向での議論を継続することも記載された。 そして、その後のWGでの議論を経て、2023年12月8日の臨時総会から各自のデバイス(パソコンやスマートフォン)での総会の傍聴が可能となった。総会の傍聴には事前の申込みが必要であり、申込みをした後に送られてくるURLから視聴ができる形式となった。6 最後に-日弁連を動かすには 以上のように今回の運動は、当初の目的である「日弁連総会での議決権の行使等」を可能とするところまでは至らなかったが「各自のデバイス(パソコン・スマートフォン)での日弁連総会の傍聴」を可能とするところまでは実現することができた。 その原因としては、この問題に熱意のある会員が集まったこと、日弁連執行部と継続的に協議ができたこと、日弁連会長選挙の機会を活かすことができたことなどが挙げられる。そして、根本的には、こういったオンラインで日弁連総会に出席(あるいは傍聴)したいという会員の潜在的なニーズに訴えることができたことが大きいと考える。 今後も、各会員が日弁連の運営に要望や不満を持ち、変えたいと考えることがあるはずである。そのときに、今回の運動の経緯が役に立つことを願っている。