私は割れんばかりの拍手の中、深々と頭を下げていました。会社のみんな私のマジックに感激してくれ、惜しみない拍手を送ってくれています。本格的にマジックを始めてから半年、私のマジック人生の中でも、大きな意味のある一日でした。あんなに嬉しい気持ちになったのは久しぶりのことでした。そう大学が合格した時、就職の内定をもらった時と同じくらいの喜びでした。今でも忘れる事の出来ない大切な出来事です。

 

 

 マジックが上手くいき、帰路につきベッドの中でもなかなか寝付くことができません。あの感動が何回も頭のなかによぎってくるからです。

 その頃から私は会社の同僚や友人にマジックを見せるようにはなっていました。しかし20人以上の大勢の前で演じる事は、なかったのです。会社の送別会でした。私がマジックをやると知っていた先輩達から、披露してほしいという声が、突然掛かりました。始めはそれでもやらないつもりでしたが、あまりにもその声が大きくなり、ついには無理やり背中を押されるような形で、演技をすることになったのです。

 

 

 披露していなかったとはいえ、その頃から私がマジックをすることはみんな知っており、すぐに丁寧にテーブルを片付けてくれ、みんなが集ってくれました。もう引き返すわけにはいきません。難しいマジックでないにもかかわらず、手が震えていたと思います。演目は、表と裏でぐちゃぐちゃに混ぜ、それが一瞬で表向きになります。そしてクライマックスには、ばらばらだったはずのトランプが新品のトランプ同様、エースからキングまで揃うというものでした。当時一番自信のあったマジックです。

 

 

 いつもは威厳を保っている支店長が、子供のように目を丸くして、驚いているのが印象的でした。そして冗談に「こんな技能があれば転職してもやっていけるな」と私にしてみれば、最高の誉め言葉をいただいたと思いました。送別される人よりも主役になってしまい、正直申し訳ない気持ちでした。

 

 

 これを機に会社全体の宴会では毎回マジックをやって欲しいという、リクエストが掛かるようになりました。ここから大きくマジックとの関わり方が、変わっていったのです。