「ほう。こいつは大きな中学生だ。お客さんの弟さんかい。弟さんと一緒に竿竹をお買いなさい」物干屋は、いよいよ竿を振り回す。
「おいおっさん。俺ぁ中坊じゃねえよ。どこの世界に3メートル越した中坊がおるんじゃ」張本は面喰った表情で物干屋に言った。
関口は驚いた。
人と見れば誰彼となく突っかかっていくあの張本が、荒い言葉であるにせよ、物干屋と普段通りに会話をしている。
今まで親兄弟以外で初対面の人間にこれほど親しげに話しをする姿を、関口は自分以外ではかつて見たことがなかった。
この男-。 振り回す竿竹の風の音がうなり、砂埃が舞う。その向こうに霞んで見えるこの小さな男こそ、やはり俺が仰ぎ見るべき漢なのではないのか。張本の、獣のようなむき出しの野生は、それを本能的に認めたということなのか。
「竿屋のおっさん、あんた一体本当に竿竹屋なのかい。あんた竿竹売って一生を過ごす気なのかい」
叫んでいた。沈思の漢と言われ、周りから一目も二目も置かれていた関口が、愈々強くうなり声を上げる竿竹の旋風の中で、知らぬまま叫んでいた。
その声は、うなる竿竹の前に力を失ったように見えたが、不思議と竿竹屋にだけは聞こえたようだった。
竿竹屋は不意に竿の動きを停止させ、ゆっくりと背負子に戻した。
そして、竿竹屋は笑った。
「俺は、俺の志のままに、生きる」
竿竹屋は、春まだ遠い空を見上げ、邪気の無い笑顔を浮かべた。
関口も思わず空を見上げた。張本は屈託のない大きな笑い声をあげた。
漢が、この名東の地に、集った。