2023年5月17日水曜日 夜の部
姫路城世界遺産登録30周年記念だそうで、「天守物語」玉三郎演出とあるのを見て遠征を決めた。
姫路観光も初めて。新幹線の駅を降りたら、町中のあちこちに「平成中村座歓迎」の文字が張り巡らされていて、一大イベントなのだなと実感。チケットは2日で完売とのことでなにより。
「棒縛り」(ぼうしばり)
中村勘九郎(なかむら・かんくろう)・*中村橋之助(なかむら・はしのすけ/芝翫の長男 27歳)のコンビ。
橋之助の踊りは、「兄さんに必死に付いて行ってます」というのが全身に出てしまっている。頑張ってねとしか言いようがない。
勘九郎は両腕を縛られていても手が踊っているように見える。手先で盃を足の指に挟む仕草ひとつでも、背中がしなやかにたわんで溜息がでた。
*中村橋之助
父・芝翫の姉が勘九郎・七之助兄弟の母なので、橋之助は従弟にあたる。
「天守物語」(てんしゅものがたり)
小さな鐘の音が聞こえたかのように思った。外の寺の鐘か?と思っていると次第に大きくなり、からだを包み込むように反響し始めた。
音響の良さに驚き、いい気分に浸っていると、ゆっくりと、誠にゆっくりと幕が開き始めた。中村座の大きさでなくては、あの幕の開け方はできないではないか。もう、これだけで興奮して、姫路まで来て良かったと思った。
中村七之助(なかむら・しちのすけ)の富姫(とみひめ)は登場するや空気を一変する美しさ。ただ欲を言えば、玉三郎と同じ路線の美しさなので、写し物のような感じに見える。
中村鶴松(なかむら・つるまつ 28歳)の亀姫は七之助のこの世の物とは思えない雰囲気に対して、現実的で愛らしくきっぱりとしていた。手毬をつきに来ましたというなんだかよくわからない理由を口にするところが妙によかった。
強く印象に残ったのは中村虎之介(なかむら・とらのすけ 25歳)の図書之助(ずしょのすけ)。丸い目をした童顔なので、富姫が一目ぼれするほどの青年というのはどうかしらん?とおもっていたのだが、せりふ廻しひとつでりっぱな美青年になっていた。たいしたものだと思う。
潰れた目が開いて背後が開き姫路城が姿を現すのは、予想していたとはいえすがすがしい。
そしてまた、素敵にゆっくりと幕が閉まり胸が一杯になった。
幕の開け閉めに賞がでないかな。
翌日、姫路城、書写山と鉄板コースを観光したのだが、猿之助のとんでもないニュースが飛び込んできて暗澹たる気持ちで寺で手を合わせることになった。
2023年5月18日金曜日 昼の部
「播州皿屋敷」(ばんしゅうさらやしき)
前日に姫路城で「お菊井戸」を見てきたばかり。かなり大きな井戸だった。
2002年の歌舞伎座で虎之介の父・中村扇雀(なかむら・せんじゃく)がお菊をやったとき、釣瓶に吊られている扇雀の身体が立派過ぎて哀れさがまるでなく、ヤッパリ幽霊になる人は細くなくっちゃなあと強く思ったのを覚えている。
虎之介のお菊は可憐だった。このひとは芝居がうまいとつくづく思った。皿の枚数が足りない、これは殺されるという怯えたままに折檻を受ける姿が怖くなってくる。
対する浅山鉄山の橋之助の顔の方が子供っぽくマンガチックに見え、残虐さが薄い。
「鰯賈戀曳網」(いわしうり・こいのひきあみ)
写真にある葉書が座席に置いてあった。
勘九郎の鰯賈猿源氏(いわしうり・さるげんじ)と七之助の傾城蛍火(けいせい・ほたるび)が結ばれ幕となるかなと思ったところ、「みなさんのお力を借りて」と勘九郎から声がかかり、客席全員立って「伊勢の国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯かう(買う)えい~」と仕草つきで姫路城に向かって声を出すというご当地サービスに使う葉書だった。コロナを経て、マスクをしているとはいえ皆で声を出せるところまできて楽しかった。
背景が開いたとき外の見物の中に、盛大に手を振っている人がいた。帰り道、「おばあちゃん、手を振ってたの見えた?」と出迎えてるお孫さんがいた。おばあちゃんも必死に振り返したと言っていたけど、外から見ると客席は真っ暗で何も見えなかったと。ほほえましいこと。
とにかく気持ちの暖かくなる一幕でありがたかった。
外に出たらNHK・Eテレ「芸能きわみ堂」の収録をしていた。離れて見ても高橋英樹は大きいなあ。平成中村座が放送されるのかも。