3月14日 水曜日 13:00

新国立劇場 小劇場

 

作・演出/ 鄭義信(チョン・ウィシン)。

 

1947年のシンガポールのチャンギ刑務所が舞台。絞首刑を宣告されたB・C級戦犯が収容されていた刑務所だという。その実在の場所と実話をベースに架空の戦犯6人の様子が描かれる。

 

朝鮮人の戦犯3人、日本人の戦犯3人。

朝鮮人の3人は日本の占領により日本国籍と日本人名を与えられ、支配下の中で貧しさから抜け出す手段として軍人の道を選んでいる。

日本人の1人は元大尉。その彼を心酔し刑務所でも頭を下げる字の読み書きができない下級兵。もう一人は初老の男。

全体を描き出すのに、うまい役割分担だ。戦場で担った役割の重さにかなり差があるのに、皆平等に絞首刑の判決を受けここにいる。その不条理さが目に見える。

 

2、3か所、説明するようなせりふがひっかかった以外、「戦犯」に至る一人一人の事情がよく見えてきて、迫って来る内容の舞台だった。

 

鄭義信の舞台には、足を引きずる人がよく出て来るが、今回も尾上寛之の役が監視員にリンチを受けてけがをして足を引きずっている。抗う術を持たない、生きずらい人の象徴なのかな。

 

ビスケット2枚しか与えられない朝食で常に腹を空かせている割には、最初からテンションの高い、動きの多い芝居が始まるのと、死刑執行前夜、重箱に詰められたご馳走が運び込まれるのに芝居進行のために、すぐに手を付けず話し続けると言うところが不自然に見えた。

でも再演すれば、このあたりはなんとかなりそう。

 

死刑執行前に池内博之がシャワーを浴びる場面は、逞しい背中があっぱれ。そのからだが次の瞬間、絞首刑で失われる。勢いよく台座に消えてゆく場面には息を飲む。

 

最後に残った、尾上寛之と平田満の二人が塀の外の燕を見て「明日も見れるか」と話し合うところは、未来がないのに次の展開があるような明るい終幕。

 

アフタートーク付きの日だった。

池内博之は新国立、三回目の登場。しかしどれも首を吊る役だそうだ。首を吊るのは毎回、気持ちがよくないとのこと。

後半、客席からの質問で、首を吊るのはどういう仕掛けになっているのか、企業秘密でなければ教えてくれと言われ、「企業秘密です!」と鄭義信が答えると平田満が「異常に強い首を持っているのです」と茶々を入れた。

 

舞台装置は、規模を縮小した形で実際のものと似せているとのこと。収用されている戦犯から、処刑の瞬間が見えた。見せしめの意味もあっただろう。本物の刑場は3人同時に執行できる形だったという。

 

実際の裁判の様子を記した記録はなくて、刑務所に入っていた人の手記が参考になった。

 

重い内容だが、明るい印象が残るし、芝居にしないと伝わらない内容なのは確かだ。