9月4日月曜日
初台新国立劇場・小劇場 18:30
上演台本・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
田舎の屋敷に、都会から教授夫婦がやってきて、さざ波を立てて立ち去っていくまでの物語。この何ということない日常を切り取って見ごたえがあった。
美術・伊藤雅子。役者の横の動きを妨げない大道具。どの家具、調度品も古びた感じがいい。透けるカーテンが効果的。
衣装デザイン・伊藤佐智子。宮沢りえが履いていた襞の細かい黒いスカート、その上に羽織るガウンが素敵。ソーニャの洋服の色合いがすべて、ぱっとしない茶系なのも彼女の冴えない容貌を感じさせてよかった。
教授の若く美しい後妻のエレーナに宮沢りえ。
最初に客席から登場した時にかぶっていた帽子から覗く顔の美しさ。
ワーニャ伯父さん、医師アーストロフが惚れるのは尤もと納得させられる。
ワーニャ伯父さんがエレーナへの恋心を吐露し「10年前、彼女が17歳、僕が36歳。あの時に結婚していれば…」と一人叫ぶところ、オジサンの妄想炸裂のおもしろがあって滑稽でちょっと悲しい。
こんなところにおかしさを持って来る演出が冴えている。
一番よかったのはソーニャの黒木華。
アーストロフへの片思いが、切なくて愛らしい。
アーストロフと握手をして、そっともう一方の手を出して彼の手を包み込もうとした瞬間に手を外され、そっぽを向かれる。行き所を失った片手をぎこちなく顔に持って行きながら微笑み続けるところがよかった。
最後に、23歳にしては悲痛すぎる諦念をのべるところでは、泣くではなし、不満を込めるでもなく、淡々とせりふを言う。その声が客席に向かって流れてくるように見えた。一本の蝋燭の光の中で、静かな静かな幕切れだった。
ケラリーノの舞台は、客席を立った時に「わかった」とお腹に落ちるものがあるのがいいな。言葉にならなくても「わかる」ものがある。あれは何だろうというのもあるけれど、訳が分からないというのとは違う。