6月14日水曜日 11:00
「名月八幡祭(めいげつ・はちまんまつり)」
松緑(しょうろく)の縮屋新助(ちぢみや・しんすけ)が、予想通りよかった。
芸者美代吉(みよきち)の家で、裏切られたとわかったときの、座り姿の全身から出てくる絶望、恐怖、怒りの感情が見て取れて怖い位だった。
この場面が一番よかった。
猿之助の三次(さんじ)は、からだが良く動くのが裏目に出て健康的な青年に見える。
チンピラにしてはてきぱきしすぎかな。
笑也(えみや)は案の定、風情のない芸者だった。今、気分が良くなることしか考えない呑んだくれの売れっこ芸者だ。今後、その感じが出せるのは米吉(よねきち)か。
猿弥(えんや)の魚惣(うおそう)は恰幅の良さといい、声の太さといい、まさにはまり役。
もう少し年を取れば、真っ赤な頭巾と着物が似合うようになるだろうな。
「浮世風呂(うきよぶろ)」
猿之助の*三助・政吉と種之助のなめくじ。種之助は抜擢だろう。年齢を確認したら今年二十四歳になる青年だ。童顔なのでまだ十代かと思っていた。
とても楽しい舞踊だ。猿翁(えんおう)で見た覚えがあるが、猿翁よりずっと小柄な猿之助の方が三助らしく見え、ふさわしいだろう。
なめくじの種之助にくどかれるとき、「オイオイ」と避ける背中のしなり具合が滑稽できれいで、よかった。
種之助のなめくじのかわいいこと。
花道七三で塩を掛けられ消えてしまうとき、客席から「あ~あ」というため息と笑い声があがったくらいだった。
猿之助が積んだ風呂桶を軽やかに上ると、ちょっとした嘆声があがった。
風呂桶の後ろに階段が隠れていたが、ほとんどの人はそれに気付かず桶を軽やかに上る様に思ってビックリしたのかな。気づいていても、その足取りにはほれぼれした。
*三助(さんすけ)
今となっては古語かな。銭湯で仕事する男性の名称。湯を沸かしたり、掃除をしたりするほか、頼まれれば男女の別なく客の背中を流すのも仕事の内。
「弁慶上使(べんけいじょうし)」
吉右衛門の弁慶。
おわさとの馴れ初めを語りながら、真っ赤な襦袢を出して横に広げた時の姿の、なんとも言えない、古美術品をみた時のような感銘を受ける、厚みのある姿が目に残る。
米吉の腰元しのぶが可憐だった。見た目に渋い吉右衛門と物堅い雀右衛門の間の娘として、程が良かった。父親に刺されてから死ぬまでの芝居にはかない風情があったのもよかった。
ちょっと雑なところもある米吉だが、いい芝居をするときは袂の扱いがきれいだ。